ニューファンドランド&ラブラドル州レッドベイ
16世紀スペイン・バスクの捕鯨船をしのぶ旅


〈 セントジョンズ市 石渡文子 〉



皆様は、カナダ大西洋側の最東端にあるニューファンドランド&ラブラドル州の海域にたくさんのクジラが集合するのをご存じですか?
コロンブスのアメリカ大陸発見(1492年)より前から、ヨーロッパから人々が豊穣(ほうじょう)な漁場を求め、ニューファンドランド&ラブラドル沖に集まっていたと言い伝えられています。

特にバスク地方(スペインのフランスに接している地域)の人々は世界でも有数な漁師といわれ、航海に必要な水先案内、造船業などの技術を生かしていました。
彼らはニューファンドランド&ラブラドル沖で保存のきく、塩ダラを作ると同時に、クジラの宝庫であるニューファンドランド沖で捕鯨をし、高価な条件で、1626年ごろまでヨーロッパとの交易をしていました。


▲16〜17世紀、バスク捕鯨船が停泊しているレッドベイの入り江風景


▲当時の捕鯨の様子を描いたポスター

捕鯨は命をかける大変危険な作業で、漁師の中でも、その勇敢な仕事ぶりは人々から尊敬され、優遇されていました。1530〜1600年ごろにかけ、15隻以上のバスクの捕鯨船が Red Bay(レッドベイ)とヨーロッパを往復。約2000人以上の漁師が、セミクジラや北極セミクジラなどの捕鯨に従事していました。

今でこそ、生活に欠かせないクルードオイル(原油)に話題が集まっていますが、それまでは動物油と植物油が大切な生活資源でした。動物油を使用するようになると、当時の油の中でも鯨油に最も明るさがあり、産業用としても重要視されていました。


▲バスク時代にレッドベイの海岸に打ち上げられたと見られるクジラの骨(Photo=CBC)

その鯨油の産業を世界で先駆け、最新の工場として発達していたのが、レッドベイです。レッドベイはニューファンドランドの島とラブラドル地方の間の海域 Strait of Belle Iles(ベルイル海峡)のラブラドル側にあります。現在はレッドベイ国立史跡公園になっています。

ここは、捕鯨の重要な拠点となっていることから「Red Bay Whaling Station」(捕鯨基地)と呼ばれています。2013年6月に、カナダ17番目のユネスコ世界文化遺産として認定され、この海域は保護されています。


▲Selma Barkham

捕鯨基地があったことが判明した最大のきっかけとなったのは、国際的にその名が知られる歴史地理学者、Selma Barkham(セルマ・バーカム)さんが学生だった当時、基地の跡を発見したことです。彼女はスペインに関する資料の中にレッドベイの捕鯨基地のことが記述されていたことに注目し、1970ごろから調査を始めました。

同時に学生を含む現地の人々、カナダ国立公園、ニューファンドランド州政府も一体となり、1977年から約15年間にわたって海中と陸上の調査を進めていましたが、1978年に海底から捕鯨に欠かせない大型船「San Juan」(サンフアン号)の発見に成功したのです。

それは、バスク地方の代表的な船の型 Gipuzkoa(ギプスコア)船で、当時、1565年にレッドベイの内湾でストーム(暴風雨)に遭遇したことが判明。同時に、北米ではメキシコ沿岸以北では最も古い大型船であることも分かりました。


▲16世紀のバスク船の特徴を示す長さ8メートルの小型船「Chalupa」


▲カナダポストが発行した「サンフアン号」の記念切手 (C)Parks Canada

また16世紀のバスク船の特徴を示していた約8メートルの唯一完全な形の小型船 Chalupa(チャルーパ)も海底から探し出されました。
2007年にすべての調査が完了。その結果、ユネスコは、この「サンフアン号」をデザインし、ユネスコにおける海底調査作業のシンボルとして使用することを公園側から承認を受けました。 カナダポスト(郵政公社)もサンフアン号のシンボルを切手として発行しました。

レッドベイのユネスコ世界遺産ビジターセンター内では、調査に長年従事していた知識豊富な公園ガイドによる説明を受けながら、当時発見された実物のチャルーパをはじめ、30分間の映像による説明や、数々の道具類、生活用品の展示などを見学することができます。


▲サドルアイランドのバスク捕鯨基地跡。沈没したサンフアン号は写真に写っている船の残骸の近くの海底にあった

また、船で5分程度で行ける島「Saddle Island」では、かつて大々的に鯨油を生産していた工場の跡や、樽(たる)作り, 高炉(Oven)、船の残骸(ざんがい)、先住民の遺跡、クジラの骨発見場所などを巡るツアーがあります。公園ガイドによる見学体験も興味深いです。
調査にまつわる面白い裏ばなしなどもガイドから聞くこともできるし、お勧めのツアーです。

レッドベイ国立史跡公園の世界遺産までは、ニューファンドランド西側に位置する Deer Lake より、ルート430号線を北上し、St. Barbe〜Blanc-Sablon(ケベック州)間をフェリーで往復する方法と、ラブラドル地方の Happy Valley Goose Bay まで飛行機で移動、あとは車を利用する方法があります。

St. Barbe から Blanc-Sablon まではフェリーを利用し、すぐそばのラブラドル地方の東側のハブ(交通の中心)となる Forteau まで車で移動するか、または、車は St. Barbe に駐車して、現地のツアー会社が提供しているツアーに参加する方法などがあります。

Blanc-Sablon から Red Bay 間は車で約1時間程度となりますが、東カナダでその高さと美しさを誇る L’Anse Amour にある、かつてライトハウス(灯台)だったホテルに泊まり、当時の様子を体験するのも面白いでしょう。

特に金曜は、氷山や、クジラ、海鳥たちが集う海を眺めながら、キャンドルの灯るテーブルで美味なディナーと、ワインを片手に、ゆっくりとひとときを過ごすのも一考です。また、現地のレストラン「Sea View Restaurant」では、バスク料理や、ラブラドルで採れるホッカイイワナ、タラのグラタンなど、特産料理を味わうこともできます。

今年の夏は、カナダの新しい世界史跡遺産、レッドベイ国立史跡公園へ足を伸ばしてはいかがでしょうか。

【ニューファンドランド&ラブラドルの旅ご案内=担当・石渡文子】
Miki Enterprises Inc.
P.O. Box 1321, St. John's, NL
Canada, A1C 5N5
Tel: 709-747-2233
www.mikieco.com

(2015年6月11日号)



 



 
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