相続法の基礎知識・オンタリオ州編〈その12〉
多様化する家族のかたちと相続


〈オンタリオ州弁護士・スミス希美(のぞみ)〉

 エステートプラニングの形は、十人十色。家族の形はプラニングの過程で重要な要素です。夫婦がともに初婚同士で家族を持ち、生涯を終えるという伝統的な家族のかたちは、今では珍しくなりつつあります。
 日本に比べて離婚率の高いカナダですが、それに比例して、再婚、再再婚、事実婚(Common-Law/コモンロー)など、多様な家族の形が存在します。このような家族関係の多様化は、相続にも大きく影響します。
 そこで今回は、夫婦関係の変化により、生じやすい相続の問題についてお話しします。




1.別居中の夫婦
 オンタリオ州では、法律婚の夫婦の一方が遺言書を残さずに死亡した場合、故人の遺産を構成する財産のうち、最初の20万ドルは、残された配偶者が法定相続人(Heir)として優先的に相続します(Preferential Share)。そして、残りの遺産を残された子供と配偶者で分け合うことになります。
 法律婚の夫婦が別居中の場合、離婚が成立するまで、法的には婚姻継続中であるとみなされます。そのため、もし別居中の夫婦の一方が遺言書を残さずに死亡してしまった場合は、残された別居中の配偶者に遺産の多くが遺されることになるのです。
 そうであっても、別居中に夫婦間で互いの相続権に関しての取り決めを盛り込んだ「別居契約書」(Separation Agreement)、及び、遺言書の更新が必要になります。
 さらに、遺言書だけではなく、生命保険、RRSPなどの金融商品の受取人指定(Beneficiary Designation)を見直すことも忘れてはいけません。




2.離婚の成立
 離婚が正式に成立した場合、婚姻中に作成した遺言書にはどのような影響が出るのでしょうか。
 離婚によって、離婚前に作った遺言書が無効になることはありません。ただし、別れた配偶者が遺言執行人や相続人に指名されていた場合は、別れた配偶者が遺言作成者より先に他界したとして扱います。
 したがって、遺言書内で「もし私の夫が私より先に亡くなった場合は、息子Aが遺言執行人に・・・」という指示に従って、第二希望に指名された遺言執行人が、その役割を果たすことになります。また、相続人についても同様で、第二希望の分配方法を実行することになります。

 遺言書では離婚した元配偶者をこのように扱いますが、注意が必要なのは、生命保険やRRSPなどの受取人指定です。離婚の成立によって、これらの金融商品の受取人指定が自動的に取り消されるわけではありませんので、受取人の変更を忘れずに。




3.そして再婚・・・
 オンタリオ州では、法的に結婚すると、結婚以前に作った遺言書は自動的に取り消されます。この法律は意外に知られておらず、再婚した方は注意が必要です。
 もし、再婚前に遺言書を作り、再婚してから遺言書を作り直さなかった場合は、たとえ以前に作った遺言書があったとしても、遺言書を残さずに死亡したとみなされます。その結果、法定相続人である残された配偶者が遺産の最初の20万ドルを優先相続し、残りを配偶者と子供の間で分けることになります。
 これにより、亡くなった方が再婚で、元配偶者との間に子供がいる場合は、再婚相手と残された子供の間で争いが生じることは少なくありません。




4.離婚後、第二のパートナーとは事実婚の関係を選ぶ
 離婚成立後、または、別居中に新しいパートナーと巡り合い、法律婚ではなく、事実婚関係(Common-Law/コモンロー)を選ぶ人もいます。

 本欄第6回(http://www.e-nikka.ca/Contents/150319/topics_03.php)でもお話ししましたが、事実婚夫婦で無遺言で死亡した場合は、残されたパートナーには、上で説明したような、法律婚の配偶者のような手厚い法的保護はありません。  これは、事実婚のパートナーは、法定相続人になる資格がないためです。ですので、事実婚のパートナーに遺産を残すことを希望している場合は、必ず遺言書を作成してください。




5.再婚同士、お互いにそれぞれ子供がいる場合
 お互いに再婚で、別れた配偶者との間にできた子供がいる場合、どのように遺産を残すかを決めるのは悩みの種です。将来もめないためにも、まず二人の間でオープンに話し合い、夫婦間で作る遺言書の内容に同意するための、「相互間遺言書契約書」(Mutual Will Agreement)と呼ばれる契約書を結び、お互いの合意のもと遺言書を作成、更新することを約束する必要があります。

 さらに、それぞれが生前に築いた財産と、二人の遺産の分配等について取り決める、結婚契約書(または、家庭内契約書とも呼ぶ)(Marriage Contract / Domestic Agreement)を作るとなお良いでしょう。

 ちなみに、晩年に再婚や事実婚夫婦になるカップルが増加しています。そのような夫婦関係では、すでにお互いそれぞれで築き上げた財産があり、子供や孫の存在により権利関係も複雑化しますので、「争続」の防止に、結婚契約書は重要な役割を果たします。




 このように、夫婦関係に変化が生じた場合は、エステートプランを見直すことが大切だといえます。

【おことわり】
本欄を通して提供した情報は、一般的及び教育的な目的として提供された情報であり、著者及びダーモディ法律事務所による読者個人への法的意見または見解を示すものではありません。特定の事実関係につき法的助言を含む専門的助言を必要とする方は、ご自身の弁護士・会計士等の専門家へ直接ご相談ください。また、カナダの遺産相続に関する法律は州によって異なりますので、本欄で提供する情報はオンタリオ州の法律に限られていることをご了承ください。

【著者略歴】

▲スミス希美弁護士
スミス希美(のぞみ):福岡県出身。中央大学法学部を卒業後、トロント大学ロースクールに留学し、ジュリス・ドクター及び法学修士号を取得。その後、2010年にオンタリオ州の弁護士資格を得る。現在、ハミルトン市の Dermody 法律事務所で、遺産相続・信託法を専門に、遺言書、委任状、贈与などのエステートプラニングや遺産の管理・処分、不動産に関する相談などを取り扱う。トロント市内での相談も随時受け付け中。
連絡先:電話 : 905-383-3331(内線)226
Email : zoe@dermody.ca
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(2015年9月17日号)



 
 


 
 
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