「合気道と座禅」
曹洞宗・嶋本勝行僧正がJCCCで指導


 トロント日系文化会館(JCCC)とJCCC合気会の共催による「座禅の会」が、10月2日(金)午後、JCCC 畳の道場で開催された。講師は、大阪の曹洞宗龍鴻山豊中正泉寺住職、合気道八段の嶋本勝行(しまもと・かつゆき)僧正。嶋本氏は合気道と座禅についてレクチャーをするとともに、座禅のデモンストレーションおよび指導を行った。


▲嶋本勝行氏

 嶋本氏は、大阪府豊中市出身、78歳。幼少のころは空手(糸東流)の稽古に励み、二段まで進む。家がお寺なので跡継ぎということで、東京の駒沢大学で学ぶ。部活は合気道クラブに所属した。当時の大学の寮監、鈴木格禅(すずき・かくぜん)氏(仏教学者)からの勧めで大学院に進み、修士号を取得する。

 禅寺として名高い曹洞宗大本山永平寺(福井県)で1年間、修行。この時の体験が人生に大きく影響したという。毎日午前2時に起床、掃除や身の回りの整頓をして、修行に入る。
「食事は、おかゆと塩だけです。そのおかゆと塩の味がうまくハーモニーして、こんなに美味しいものがあるかと思うくらい。食べ物の本当の味が分かるようになりました」


▲合気道のデモンストレーションをする嶋本氏(右)

 合気道歴60年という嶋本氏。「自然の禅」と「自然の合気道」を融合した姿を国内外で教えている。
「よく、自然体と言いますが、自然体すなわち当たり前、なのです。この当たり前を仏教の経典では、一大事と言っています。つまり、特別なことが一大事ではなく、ふだん当たり前のことを言っているのです」


▲正座して両手を組む

 座禅は、何でもない、当たり前の座り方である。足の組み方は、左右の両ひざとお尻の3点をつけて正座し、上体を支える。  手の組み方は、法界定印(ほっかいじょういん)と呼ばれ、右手を左の足の上に置き、その上に左の手をのせて、両手の親指を自然に合わせる。組み合わせた手は、下腹部のところにつけて、楽な形にする。

 座禅の姿勢がととのったら、大きく深呼吸を数回してから、静かにゆっくりと鼻から呼吸する。
 座禅をしている間は、曹洞宗では「無思考」に徹する。つまり、何も考えない。考えないことも考えないということである(ただし臨済宗はちょっと違うそうだ)。


▲JCCC「座禅の会」会場風景


▲警策(きょうさく)を手に、嶋本氏

「当たり前の日常生活の中にこそ、禅があるのです。大自然の中に入ってください、この世のしがらみを取り払ってください、ということです」

 ところで、座禅は通常、すわって行うが、このほかに、立ってする「立禅」、歩きながらする「歩行禅」、それに、食べている時、掃除をしている時なども禅の修行はできるのだという。

 JCCC 畳の道場では、参加者たちが熱心に嶋本氏のレクチャーに耳を傾け、座禅のデモンストレーションを見ながら練習していた。
 1時間半の「修行」を終え、参加者たちは、開始前とはちがった、すっきりした表情に変わったかのように感じた。

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 嶋本勝行氏は、日本国内だけではなく、海外にも足を運んで合気道と座禅の融合について指導を行っている。過去27年間に訪問した国は、カナダ、オランダ、ベルギー、オーストラリア、イスラエル、ポーランド、シンガポール、台湾など17カ国に及ぶという。

「海外では、禅と武道の話になると、生徒たちには、このチャンスを逃してなるものかと血まなこになって学ぼうとする姿勢が見られます。私自身も海外から日本に帰国すると、『先生、変わりましたね』と言われます。教えることによって、ある意味で自分が成長して、自然と“脱皮“しているのかも知れません」


▲両手を左右に伸ばして合気を披露(JCCC畳の道場にて)


▲真剣な表情で練習する参加者たち(JCCC畳の道場にて)

 嶋本氏は、「オランダとイスラエルでは日本で修業した人が帰国して教えているが、トロントには日本人の指導者が二人います。こんな国は珍しい。優秀な指導者で、恵まれていますね」と言う。JCCC合気会では小幡宰(おばた・おさむ)師範(七段)と市田嘉彦(いちだ・よしひこ)指導員(五段)のもと、長年にわたり大勢のメンバーが熱心な稽古を続けている。今後ますます発展していくことを期待する嶋本氏である。

 20年前の1995年、大腸がんの手術をした。そして3年前には胃がんの手術。「手術する前に、もうこれで最後かと、みんなに別れを告げて病院に行ったのですが、2回とも生きて帰ってきた。思わず『ありがとう』と合掌しました」

 昨年(2014年)1月には、日本の武道界で最も栄誉ある表彰といわれる「武道功労者賞」を受賞した。1961年に自分のお寺、正泉寺に合気道の道場を開設し、関西をはじめ国内はもとより国際的に合気道の指導に尽くしたことが評価された。
 NHK朝の連続テレビ小説「まんてん」(2002年9月〜2003年3月放送)で、女優の宮本信子さんに合気道の技術指導を行ったという経歴の持ち主でもある。
 とても78歳とは見えない、元気な姿で合気道と座禅の指導に意気を燃やしているところだ。

〈 リポート・色本信夫 〉

(2015年10月8日号)



 
 


 
 
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