カナダで初、自然葬専用墓地 
ジョージア海峡に浮かぶ島デンマンアイランドに設立

 
〈 ビクトリア市 サンダース宮松敬子 〉



ジョージア海峡の島々

 カナダ本土とバンクバーアイランドの間にあるジョージア海峡には、ざっと数えただけで15〜6の島が存在する。中にはフェリーの航路にも入らず、生活も自給自足で雨水をためて生活するような人々が住む小さな島もあるようだ。そんな生活も、自分自身が満足し不便を感じない限り可能である。

 理由の一つは、国内の他の地域と比べて比較的気候が温暖であることが大きいだろう。もちろんまったく雪とは無縁というわけではない。だが多少降ってもすぐに解けることが多いため、どの家にもいわゆるセントラルヒーティングのような設備はない。各種のファイアープレースと電気ヒーターがあれば、真冬でも十分に間に合うのだ。電気代はトロント地域と比較すると格段に安い。

 ビクトリアのような都会でも、冬の備えは同じようなものだが、特に海峡に浮かぶ島々では「自然と共生」して生きる生活様式が住民のメンタリティーとして定着している。


▲デンマン島のフェリーの船着き場

デンマンアイランドの生活
 そんな島の一つに、ビクトリアの町から車で北に2時間半ほど行った Buckley Bay 沖に浮かぶデンマン島(Denman Island)がある。Buckley Bay の港からフェリーに乗れば15分ほどで到着する。
 人口は1,200人ほどであるから、極小の島というわけではないが、野菜畑を育てるなどは島民には普通のことで、お互いに出来たものを物々交換したりも日常的に行われている。


▲この時期でもまだたわわに実っているりんご

 だが、肉類は政府指定の屠殺(とさつ)場がないため、たとえここで育った食肉用の動物でもバンクーバーアイランドに運んで処理するという。島にはゼネラルストア(雑貨屋)、リカーストア、本屋、クラフトの店などはあるものの、人々は定期的にフェリーでバンクーバーアイランドに渡り買い物をする。
 当然ながら消防署もあり、資格のある救急隊員が本土から2週間交代で派遣されている。加えて、希望する島民は訓練を受けてボランティアとして補助し、緊急時には全員が持つページャーで「911」から連絡が入る仕組みになっている。彼らには税金控除の特典が付く。

 病院はないものの、島内の住民によってホームケアの組織が構成されており、ある意味では大都会より心のこもったサービスが受けられる可能性もあるようだ。
 しかし夏場はツーリストが数多く押し寄せるため、バケーションランドと化し、冬場の静寂は大分失われる。彼らが泊まるB & B の商売をする家々も多いが、今の時期になれば大方が閉められ静けさが戻る。夜などは、それこそ懐中電灯がなければ何も見えない闇(やみ)になる。

 日中の日差しも短くなったそんな秋の一日、ちょうどサンクスギビングデー連休の日曜日(10月11日)に、カナダの耳目を集めるニュースがこの島から発信された。西海岸の新聞はもちろんのこと、CTV などでも取り上げられたのは、「自然葬専用」の墓地がデンマンアイランドにオープンしたからである。


▲デンマンアイランドの自然葬専用墓地の入り口、島に住む彫刻家 Michael Dennis 氏の作品

 もちろん自然葬自体は太古の昔から行われてきたもので珍しいわけではない。とりわけ西海岸では、ファーストネーションの人々がその先駆者であるし、他にも国内に4〜5カ所あるという。だが、近代における一般人を対象とした埋葬方法としてはまだ目新しく、その「専用墓地」というのはカナダでは初めてなのだ。

近代社会の埋葬法
 近年こうした自然葬が話題を呼び、今、それを支持する人々が非常に多くなっているのはなぜなのだろうか。それは、地球になるべくダメージを与えない「環境にやさしい葬儀」というのが重視され、真剣に考える人々が増えてきたからである。

 現実問題として、人が亡くなった場合を考えてみよう。北米における普通の手順では、まず防腐剤(ホルムアルデヒド)などの薬品を遺体に使って腐敗を防止する。その後、お通夜(Viewing)のために、特にオープンキャスケット(ひつぎ)の場合は、本人が生前好きだった洋服(化学繊維が多い)などを着せたり、化粧(化学薬品が含まれる)を施したりもする。
 加えて、お棺も、費用によるものの、金属の留め金などがたくさん付いている化学処理をほどこした木材が使われる。

 そして埋蔵。いずれお棺全体が朽ちて長い年月の後には土の一部になるものの、どれもこれも化学処理をした材料を使用するため「死して自然(土)に返る」という考えからは程遠いことになる。

 では日本人などに多い火葬の場合はどうだろうか。普通は、日常生活の中でこのようなことを考えることは余りないものだが、一人の遺体を火葬するには、車が900キロも走るのと同じ汚染物質を排出するのだそうだ。そして火葬後には遺灰を陶器や金属の壷(つぼ)に入れて、多くの場合、コンクリートで囲った地中に埋め込む。

 冷静に考えてみれば、どれを取っても地球には害がある方法である。

「自然葬」とは?
 そこで「Green、Green」と叫ばれている昨今、亡くなった人に一切手を施すことなく埋葬しようというのがこの「自然葬」なのである。こうした動きは、25年ほど前に英国で始まり、今では200カ所にも及ぶという。それが北米にも伝授され、特に自然環境の整っているBC州の人々の間で支持されているのだ。

 しかし、墓地の新設となればそう簡単に出来るものではない。デンマン島でもこの秋オープニングにこぎ着けるまでには6年もの歳月を要した。必要に迫られた一番の理由は、島民が亡くなっても、すでにある従来の墓地には、もう埋葬出来る余地がなくなってしまったことによる。


▲自然埋葬墓地の反対側にある従来の墓地はすでにいっぱいで余地がない


▲長い間には苔(こけ)むして見苦しくなる

 そこで考えられたのがこの自然葬で、島の真ん中にある背の高い潅木(かんぼく)の茂る環境的に配慮された土地(54平方キロメートル)が選ばれ、島民の支持のもとに徐々に開発が進められて来たのである。

 埋葬の条件は、防腐剤は一切使用せず、分解性のある繊維で遺体を包んだり化学処理のない木の蔓(つる)などで作ったキャスケットを使い、地下にはコンクリートの囲みを設けないこと。更には、埋葬後は地上に従来型の墓石を置かず、花や木々を植えないこととされている。


▲柳のつるで出来たキャスケット(ひつぎ)


▲遺体を包む布。化学繊維は使わない

 埋葬できるのはデンマン島の住人に限られているが、費用は$1,732.50ほどで済むという。埋葬された第一号は、長い間この島に住んでいた70代の女性で、オープニングの2日ほど前に埋められた。


▲自然の木々に囲まれた自然葬第一号の人のお墓

 計画では、これから100年先までを見越している。敷地の奥に向かって約1,000体を埋葬できるキャパシティーがあり、必要に応じ、周りの木々の除去が行われていく。


▲自然葬墓地の予定見取り図

 また、家族が墓参に来た際には、集える場所があり、コンクリートの壁には名前を彫ったプラグをはめ込むことが出来るようになっている。


▲墓参の人々が休憩できる場所。後ろの壁に名前をはめ込むことが出来る

 まだこれから整えることも多いのだろうが、いずれにしてもカナダで初の「自然葬専用」ということで話題をまいたことは確かだ。

 ところ変わってバンクーバーアイランドのビクトリア市郊外にある広大な Royal Oak 墓地にも「Natural Burial」と称するエリアがあり、同じコンセプトの墓地が存在する。


▲背の高い木々に囲まれた自然埋葬地の一角。白木の棒が目印になっている


▲名前が刻まれている御影石(みかげいし)

デンマン島の日本人移住者たち
 話は変わるが、デンマンアイランドには何人かの日本人移住者も住んでいる。カナダの日系作家の作品を翻訳する仕事を続けている人もいれば、リタイアする以前には、有機栽培の原料を使って味噌の製造を商売にしていた人もいる。また、ゴルフが好きで、西海岸にお子さんたちが住んでいるなどの理由からトロント近郊の町での生活にピリオドを打ち、ここに居を構えた人もいる。

 いずれも都会では考えられない広大な土地を所有し、ご夫婦で畑仕事、キノコ取り、薪(まき)割りなど、大自然の中でゆったりと時間に迫られない日常を送っている。
 島の人々との付き合いはもちろん重視しながらも、決してお互いの生活に深入りしないことが暗黙の了解になっているようだ。

 島民になって2年ほどのご夫婦は、島での人間関係を「都会でいうボランティアのあり方とは違ったマインドがここにある」と話す。「トレイドイン」という言葉が日常に使われ、例えば音楽のレッスンに対するお礼に海苔(のり)巻きを作って持っていけば良し、などということもあったりする。
 都会ではありえない Give & Take の付き合いが生活の一部として根付いている島。どなたも自然と共生しながらの居心地のよい生活を楽しんでいることは疑う余地がない。

(2015年10月22日号)



 
 


 
 
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