サンパウロの東洋人街「リベルダージ地区」
日系人経営のお店減少傾向に一抹の寂しさ


〈 リポート・色本信夫 〉

 南半球のブラジルは、春から夏に変わりつつある。筆者が訪れた10月末から11月初めは、サンパウロは朝晩まだ涼しい天候だった。それでも日中は、気温は上昇していて、心地よい。
 ブラジルの人口はおよそ2億人。その中で日系人が150万人ともいわれる。最大都市サンパウロには大きな日系コミュニティーがあって、さまざまな活動を行っていると聞いた。

 折から、日本とブラジルの外交関係樹立120周年ということで、秋篠宮ご夫妻がブラジルをご訪問、サンパウロ、ベレン、ブラジリア(首都)、リオデジャネイロなど15日間にわたり巡って、記念式典や日系団体との交流イベントに出席された。この様子は、現地の「ニッケイ新聞」「サンパウロ新聞」など日系メディアが大々的に取り上げ、報じていた。ご夫妻は帰国後、「私たちが日常生活の中であまり意識していない『日本』をブラジルで感じることがたびたびありました」と話されたそうだ。


▲日本・ブラジル外交関係樹立120周年記念イベントに出席された秋篠宮ご夫妻(10月28日、サンパウロ)=ニッケイ新聞 Jornal Nippak より

 ブラジルには、2000年第19回「日加タイムス文学賞」の小説コンテストで入選した日系人、駒形秀雄(こまがた・ひでお)さんが住んでいる。駒形さんは、戦後のブラジル日系社会で大問題となった「勝ち組、負け組」をテーマに「勝ち組」と題する衝撃的な小説を著した人である(小説は2000年9月から11月まで日加タイムスに連載)。
 筆者は駒形さんにお会いしたいと願っていたが、このたび、その念願がかなった。彼は、新潟県出身、82 歳。ブラジル歴は57年。長年、ブラジルの丸紅関連会社に勤務、退職後はサンパウロで暮らしている。


▲駒形秀雄さん

 駒形さんは、まず最初に、かねてから話に聞いていた東洋人街地区「Liberdade」を案内してくれた。この「Liberdade」は、「自由」という意味だが、サンパウロでは日系人を中心とした東洋系人の地区としてこう呼ばれている。「リベルダーデ」と表記する人もあれば、「リベルダージ」と言う人もある。会話では「リベルダージ」で通用するようだ。


▲リベルダージ地区のシンボル、赤い大鳥居


▲日伯文化協会の建物。10月25日にはここでブラジル広島文化センターの創立60周年記念式典が盛大に開かれた

 リベルダージはサンパウロ市のど真ん中に位置し、南北に走る1キロメートルほどのメインストリート、ガルボン・ブエノ通りに沿って日本の食品店、ホテル、レストラン、コンビニ、書店、エステ、仏壇を販売する専門店、さらに小規模ながら日本庭園まで並ぶ。周囲には日伯文化協会(ブラジル日本移民史料館)、邦字新聞社2社、県人会事務所などが点在する。






▲仏具店

 この通りには、赤い大鳥居が立っていて車や人はこの鳥居をくぐって往来する。そばにはサンパウロと大阪市が姉妹都市提携を記念し命名されたという「大阪橋」(陸橋)が架かっている。これとは別に「三重県橋」という橋もある。日本ムードが漂う地区である。

▲ホテル



▲メインストリートに面して日本庭園もある


▲毎週日曜にリベルダージで開かれる「東洋市」。焼きそば、今川焼き、カキ揚げなどが好評

 リベルダージのお店の人と会話をするのに、日本語で試してみた。流ちょうな人は少なく、片言の日本語で応対する人や全部ポルトガル語という人が多かった。それでも、接客マナーは親切だったので、うれしかった。

 駒形さんの話によると、近年、日系移民が築いてきたビジネスを手放して、そこに中国系や韓国系の人が替わって入ってくる傾向が強くなってきたという。
 お店の看板が日本名になっていても、日系人以外の経営者に替わっている所が増えてきた。「親の代まではモノを売るとか食べ物を提供する食堂などの商売をしてきた家族が、 子供の代になって、子供たちは高等教育を受けたあと、それなりの職業に就くことになり、リベルダージから離れていくのです」と語る。
 そして「中国系、韓国系の人たちに日系人がビジネスで負けて出ていくのではなく、自分たちの事情でここを離れているのです」と駒形さんは強調した。

 商店街として人通りも多く、にぎわっているリベルダージ地区が、いつか、日系人の姿が減って、他の東洋系の人たちが大多数を占める日がやってくるという時代が来るかも知れない。そんな、一抹の寂しさも感じられた。

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 「ブラジルの景気はどう?」とよく聞かれる。筆者のような短期滞在の旅行者にははっきりとした答えは出せないが、決して好景気とは言えないようだ。最近全国的に起きた大統領退陣要求デモのニュースを見ると、悪化する経済状況が大きな原因とされている。ブラジルの最大の貿易相手国である中国が景気低迷に陥ったこと、資源価格の下落で経済成長率は低下し、インフレ率が9%に迫るなど市民生活を圧迫。さらに、増税、社会保障の削減が国民の不満を広げている。


▲リベルダージ地区で起きた強盗事件を報じるサンパウロ新聞(10月21日付)

 経済低迷も加わってか、犯罪の発生件数はかなり多い。犯罪発生率は日本の400倍というから、驚く。
 日本人街「リベルダージ」も例外ではないようだ。つい最近では、10月19日、メインストリート、ガルボン・ブエノ通りのアパートに2人組の強盗が押し入り、日系女性(24歳)がパソコン、携帯電話、腕時計、衣類などを強奪される被害に遭ったと邦字紙で報道されたばかりだ。
 日中には人混みでにぎわうこの地区も、夜間は人通りがぐっと少なくなってしまうと、地元の人が話していた。やはり、防犯対策は不可欠であろう。

 日系人のブラジル移住の足跡を豊富に残すリベルダージ地区。これからも彼らの歴史をしのぶよすがとして存続してほしいと願わずにはいられない。

(2015年11月19日号)

 



 



 
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