映像で社会のすき間を訴える
ドキュメンター作家、横間恭子さん


〈インタビュア・いろもとのり子〉

 ドキュメンタリー作家と一言にいっても、いろいろな分野がある。社会的政治的ニュース性の高い映像、人生をつづったものなど。しかし、あまりメディアが報道しない部分もある。そんな報道の「すき間」に着眼してドキュメンタリー作品を製作している女性がいる。横間恭子(よこま・きょうこ)さん。

 2015年にイスラム教女性の伝統的なヒジャブ(スカーフ)をテーマにした映画「Between Allah & Me (and Everyone Else)」(アッラーと私とスカーフと)を完成させ、世界各地で上映した。トロント地区でも1月30日にタオサンガセンターで、また2月5日には Beit Zatoun で上映され、大きな反響を得た。


▲サスカチワン州ヨークトンでの映画祭で受章した「金稲穂賞」の記念トロフィーを手に、横間恭子さん


▲「Between Allah & Me(and Everyone Else)」のポスター

 横間さんは1964年、神戸に生まれる。甲南大学社会学部・心理学科を卒業後、ニューヨーク市立大学で政治学を専攻し、ジャーナリズムの分野を学ぶ。

 1995年、故郷の神戸で阪神淡路大震災が起きる。これに関連してニューヨークに住む神戸出身のダンサーを追ったドキュメンタリーに取り組むことに。
 1997年、ニューヨークで知り合ったトルコからの留学生と結婚し、2000年までの3年間、トルコのイスタンブールに住む。


▲「Dancing with Lives(命と舞いながら)」のDVDとポスター

 2000年にカナダに移り、再びドキュメンタリーに取り組む。カナダ国立映画製作庁(NFB)をはじめ、各方面のグラントを得て、ニューヨーク時代に取りかかったドキュメンタリー「Dancing with Lives(命と舞いながら)」(72分)を2005年に完成させる。この映画は震災10年後にあたり、日本と米国で上映された。
 2012年にトロントのライアーソン大学でドキュメンタリーメディアを専攻し芸術修士号を得る。

 こうした経歴を持つ横間さんにドキュメンタリー映画にかける思いや、最新作「Between Allah & Me (and Everyone Else)」について、トロント郊外の自宅兼仕事場におじゃましてお話をうかがった。

カナダの自分で決められる社会に尊敬
映像の中でもドキュメンタリーを選んだ理由は?

 ニューヨークでライターをしていた時、ひとりで取材し、カメラを持って映像を撮るテレビ局を取材しました。こんな映像の世界もあるのだと気づき、ただ書いて伝えるより映像の方がより訴える力があるのではないかと思いました。
  どんな話題でも、いわゆるニュース報道や新聞記事が伝えきれていない複雑で曖昧(あいまい)な部分がある。そのすき間を埋めたいと思いました。

「Between Allah & Me」を製作しようと思ったきっかけは?
 トルコに住んでいた時の経験からです。トルコは共和国になってからはイスラム教徒が大半を占める国々の中でも近代的で、宗教に関しても柔軟な国です。
 しかし、日本人から見れば、たかがスカーフ(一般にヒジャブと呼ばれる)をするかしないかなんて大きな問題ではないと思われますが、イスラム教徒にとっては宗教的政治的な理由のほかにも、慣習として、家族をはじめ親族、仲間たちとのグループに認められるか、阻害されるかの大きな問題なのです。そんな例をずいぶん見てきました。
 トルコにいるときは「ヒジャブ」をテーマにしたドキュメンタリーを撮ることはできませんでしたが、カナダではこれが可能だったのです。

■「Between Allah & Me (and Everyone Else)」(アッラーと私とスカーフと)の内容
 カナダに住む敬虔(けいけん)な4人の女性ムスリムが、それぞれにヒジャブ(スカーフ)をするかしないかで迷い、悩み、口論し、決断し、実行する姿を追う。彼女たちは、賛否両論が飛び交う周囲のさまざまな反応に対処していきながら、心の内を語る。多文化主義のカナダは異文化を尊重し、非差別教育も進んでいるが、いろいろな意見、価値観、社会規範が混在する。信条を貫きながらもマイノリティーとして、家族や友人や同僚や社会と折り合いをつけていこうとする女性たちを通じて、外からは見えにくい意外で多面的なスカーフの意味と役割が浮かび上がる。
 これまでにマレーシア、インドネシア、ロシア、米国、サスカチワン(カナダ)などの映画祭で上映され4つの賞を受賞している。


▲映画「Between Allah & Me」のひとコマ


▲1月30日タオサンガセンターで開催の上映会で観客の質問に答える横間さん(右奥)

この映画のなかで一番訴えたかったことは?
 イスラム教徒にとってスカーフをするのが正しいか正しくないかということより、彼女たちが自分の判断で決められるカナダの社会、この自由なカナダを尊重したい、ということです。
 製作中、出演してくれた女性たちがトラブルに巻き込まれないよう配慮する必要がありましたが、本当に皆さんよく協力してくださったと感謝しています。

これから、この映画をどのように広めていく予定ですか?
 これまで主に映画祭に出品してきましたが、今後は大学や学校の授業で活用してもらったり、キリスト教やユダヤ教など異教徒のコミュニティーや女性を支援する団体などで上映会を開いていただきたいですね。
 DVD(英・仏語版と日本語字幕)もできましたので、カナダだけではなく、日本の学校や図書館でも学術参考映像として広く見ていただきたいです。今後は、ロシア語、アラビア語など多くの言語版をネット上でリリースしていきたいと考えています。

世界の各地でテロが起き、イスラム教徒に対しても厳しい目が向けられていますが、カナダのシリア難民の受け入れ政策に対してはどのように思いますか?
 カナダがシリア難民を受け入れることは大変良いことだと思います。安全保障の面から言うと、入れるか入れないかではなく、入れた後、彼らの声が反映され、努力が報われる社会であるかどうかにかかっていると思います。
 こうしたカナダの寛容さはテロを防ぐのにきっと役立つと思います。

福島原発に関するドキュメンタリーに取り組む
今後、製作したいテーマはありますか?
 2011年に起きた東日本大震災での福島の原発事故に関する作品です。福島にはすでに3回行き、のべ3カ月間取材のため滞在しました。原発事故に関するドキュメンタリーはこれまでにいくつも製作されています。その中でまた、「すき間」を探しているのです。女性にフォーカスをあてる作品になる可能性が高いです。
 観客の対象は日本人ではなく、カナダ人をはじめ外国人が中心になります。というのは、外国では事故が起きたことは知っているが、実際に何が起きているのかよく知らない、という人が多いのです。
 完成は今年中を目指しています。

福島原発に関して横間さんがオーガナイザーの1人になっているドキュメンタリーのイベントがあるそうですが・・・
 カナダ人女性3人と計画した「5 Years Later : Lessons from Fukushima for Ontario」というイベントです。福島の母親と子供にフォーカスを当てた、在日米人監督の作品「A2-B-C」(70分)を上映し、専門分野のゲストを招いて、放射能の健康面への影響や、ここで実際に事故が起きた場合の避難計画などを学べます。
 上映は3月10日、11日、12日の3日間で、会場はトロント市ダウンタウン、ビーチ地区、ピッカリング地区の3カ所で行う予定ですが、場所はまだ確定していません。(連絡先:angela@cleanairalliance.org)
今後ともさまざまなテーマに向かって社会の「すき間」をつく作品を製作し、人々に訴え続けることを願っています。

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◎「Between Allah & Me (and Everyone Else)」のウェブサイト
www.hijabdocumentary.com

◎横間恭子さんの連絡先:kyoko.yokoma@gmail.com

(2016年2月18日号)

 
 


 
 
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