相続法の基礎知識・オンタリオ州編(その17)
愛だけでは務まらない?
遺言執行人と委任状代理人への報酬について


〈オンタリオ州弁護士・スミス希美(のぞみ)〉

 本欄第5回(http://www.e-nikka.ca/Contents/150219/topics_03.php)では、遺言執行人と委任状代理人の役割についてご説明しました。今回は、この役職を務めるにあたって支払われる報酬についてのお話です。次の例を見てみましょう。

 1年前に高齢の母を亡くしたA子。母が寝たきりになってから亡くなるまでの2年間、財産管理及び身体の世話のための委任状の代理人として、務めてきました。その後、母が亡くなってからは、遺言執行人として、遺産相続のための雑務に忙しい日々です。相続人は、A子自身と兄たち4人を含め5人。いよいよ遺産の処分・整理も最終段階を迎え、遺産金分配の前に相続人への会計報告を行いました。会計報告の中に、「委任状代理人報酬、遺言執行人報酬」の承認を求める文書が含まれていました。A子の兄たち4人は、「報酬なんてもってのほか!」と断固反対しています。代理人・遺言執行人として母の奔走したA子の報酬は認められるでしょうか?




報酬は労働への対価
 オンタリオ州の法律では、遺言執行人(Executor/Estate Trustee)および委任状代理人(Attorney)に対して、その任務を遂行したことへの報酬が認められています。この背景には、これらの役職を受け入れ、任務を遂行した人への労働の対価を支払うべきであるという政策があります。ちなみに、裁判所の判決の中に、時間も手間も要するこれらの仕事は、「愛だけでは務まらない」というコメントを残した裁判官もいたくらいです。

 それでは、遺言執行人や委任状代理人の報酬は、どのように決められるのでしょうか。なお、銀行などを遺言執行人や財産委任状代理人に指名した場合は、ご本人と銀行の間で交わした契約書(Compensation Agreement)ですでに報酬額が決められていますので、以下の説明は当てはまりません。

遺言執行人の場合(Executor's Compensation)
 遺産に関するあらゆる手続きを行う遺言執行人は、その任務遂行で経験した「手間、苦痛、苦労、時間に対する公正で正当な報酬」を請求することができるとしています。

 遺言執行人の報酬を計算する方法は、法律により細かく決められていますが、大まかにまとめると、故人の死後に遺産としての収入額(Revenue/例:不動産の売却金、預金、投資など)の2.5%と、遺産からの支出額(Disbursements/例:税金、諸経費、法律・会計費用など)の2.5%を合わせた額を遺言執行人報酬として請求することができます。
 ただし、この計算式はあくまでも目安であり、遺産の大きさ、遺言執行人の責任、費やした時間、遺産管理に要するスキルと能力、そして、遺産管理の成果、という五大要素を考慮して、「公正で正当な報酬」(Fair and Reasonable Compensation)を決めることになります。

 ちなみに、遺言執行人の報酬の請求は、通常、遺産管理の最終段階である分配前に行われ、相続人全員が同意しなければ、報酬を受け取ることはできません。ここで合意に至らなければ、その判断は裁判所に持ち越されることになります。




財産委任状代理人の場合 (Attorney's Compensation for Property)
 「財産管理のための委任状」の代理人の報酬については、州の法律に従い、代理人として活動を始めてから、委任者のために受け取った収入額の3%と支出額の3%をあわせて請求することになります。ただし、代理人として報酬を得るためには、第三者の財産を扱うにあたり、会計記録をはじめ、代理人としての責務を忠実に遂行していなければなりません。




身体の世話のための委任状代理人の場合 (Attorney's Compensation for Personal Care)
 「身体の世話のための委任状」(Power of Attorney for Personal Care)の代理人の報酬については、遺言執行人や財産代理人とは異なり、報酬の算出方法は法律により定められていません。
 しかし、ケースバイケースで、裁判所は身体委任状の代理人に正当な報酬(Reasonable Compensation)を認めています。これまでの判例で、委任者の身体の世話のために提供したサービスの期間と質、内容、および、委任者の財産の大きさを考慮しながら、時間数を計算するなどして適切な報酬を判断します。




報酬の請求を望まない場合
 もし、遺言執行人や委任状代理人に、自分の財産や遺産から報酬を支払いたくない場合は、遺言書と委任状の中に報酬の受け取りを禁じる条文を入れる必要があります。このような明確な禁止条項が文書に含まれていない限り、遺言執行人や代理人は報酬の請求をしてもよいとみなされます。なお、報酬禁止条項により、遺言執行人や代理人を指名していても、指名された人が辞退する(Renounce)原因にもなりますので、十分に注意する必要があります。

 ちなみに、これらの報酬は、個人所得としてインカムタックスの対象になります。ですので、それぞれ個人の状況に応じて、専門の会計士や弁護士のアドバイスを受け、報酬の請求について決めることが必要でしょう。




報酬を請求する場合
 遺言執行人・委任状代理人として報酬を受け取るためには、名実ともにその役職を自分のものにしなければいけません。したがって、任務開始時から終了まで、どのような仕事をしたかという詳細な記録、会計の記録をつけること、中立な立場で委任者・遺言者の財産を扱ったかなどは、報酬が認められるための最低条件といえます。




【おことわり】
このコラムを通して提供した情報は、一般的及び教育的な目的として提供された情報であり、著者及びダーモディ法律事務所による読者個人への法的意見又は見解を示すものではありません。特定の事実関係につき法的助言を含む専門的助言を必要とする方は、ご自身の弁護士・会計士等の専門家へ直接ご相談ください。また、カナダの遺産相続に関する法律は州によって異なりますので、当コラムで提供する情報はオンタリオ州の法律に限られていることをご了承ください。

【著者略歴】

▲スミス希美弁護士
スミス希美(のぞみ):福岡県出身。中央大学法学部を卒業後、トロント大学ロースクールに留学し、ジュリス・ドクター及び法学修士号を取得。その後、2010年にオンタリオ州の弁護士資格を得る。現在、ハミルトン市の Dermody 法律事務所で、遺産相続・信託法を専門に活躍中。遺言書、委任状、贈与などのエステートプラニングや遺産の管理・処分に関する相談などを取り扱う。
〈連絡先〉電話 : 905-383-3331(内線)226
Email : zoe@dermody.ca
Website : www.dermody.ca


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(2016年2月18日号)

 
 


 
 
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