【ネットインタビュー】
山田あかね監督「犬に名前をつける日」
被災動物たちの救援を織り込んだドキュメンタリードラマ
3月10日(木)JCCC上映会を前に監督が語る


 2011年3月11日にあの忌まわしい東日本大震災が発生してから、5年がたつ。トロント日系文化会館(JCCC)では、5周年を迎えるにあたり、特別イベントとして義援金募集の映画上映会を、3月10日(木)夜、小林ホールで開催する。映画は山田あかね監督の「犬に名前をつける日」(Dogs Without Names)、英語の字幕付き。

 この映画は、東日本大震災のあと避難地域に残された動物たちの救援活動を織り込んだ、名前のない犬たちと彼らを救い出す人々を描いた山田あかね監督の感動ドキュメンタリードラマである。山田監督は、上映会の当日、JCCCの会場に出席する。

 本紙は、上映会を前に、山田監督にネットインタビューして、お話をうかがった。写真はすべて山田あかねさんの提供による。〈インタビュア・色本信夫〉

○    ○    ○


▲山田あかね監督

映画「犬に名前をつける日」を製作するようになったきっかけは何ですか?

 2010年の10月、飼っていたゴールデンレトリーバーのミニ(10歳)が、悪性腫瘍(しゅよう)にかかりました。たくさんの病院へ連れて行き、手術したり、抗がん剤治療をしたり、手を尽くしましたが、わずか1カ月で亡くなりました。
 ミニを亡くした悲しみからなかなか立ち直れず、ゴールデンレトリーバー発祥の地、スコットランドを訪れたり、ロンドンの犬と猫の保護施設を取材に行ったりしました。
 仕事をする気も失っていました。そんなとき、先輩の映画監督・渋谷昶子(しぶや・のぶこ)さんから、「悲しんでばかりいないで犬をテーマに映画を撮ったら」と勧められ、撮り始めました。「ミニは死んでしまったけれど、これから救える命があるはず。そのために自分でできることをしよう」と思ったことがきっかけです。


▲映画「犬に名前をつける日」の一場面、小林聡美さん

この映画にはご自身の体験が込められているのですか?

 小林聡美(こばやし・さとみ)さんが演じる、テレビディレクターには、私自身の体験が投影されています。テレビディレクターという職業、犬を亡くしたことがきっかけで、映画を撮り始めること。動物愛護センター(殺処分を行う場所)に初めて行き、ひどくショックを受けることなどは、すべて、自分の体験です。
 犬や猫を救うボランティアの方と出会い、彼らに感心していくのもそうです。取材を通して、保護犬を飼うことになるのも、私自身の体験です。

東日本大震災で飼い主から切り離された犬や猫たち、それを保護する人たちのことを追って4年にわたり撮影、編集したのがこの映画だとうかがっていますが、その間の苦労ばなしをいくつかおしえてください。

 東日本大震災で取り残された犬や猫以外についても描いていますが、震災で残された犬と猫も大きなテーマでした。
 なかでも、福島第一原発から20キロメートル以内の立ち入り制限区域に残された動物たちは、突然、飼い主がいなくなり、食べ物も飲み物もないまま、放置されました。つながれたまま餓死して亡くなった犬もたくさんいました。せっかく生き延びたのに、殺処分になった家畜もいて、理不尽さを感じました。
 しかし、一方で、彼らを助け出すために懸命に行動したボランティアの人たちに出会えたことは、良かったと思っています。嘆くばかりでなく、行動することの大切さを目の当たりにしました。
 被災地から救われた犬と猫のシェルターも何度か取材しましたが、そこは希望に満ちていました。被災動物・・・というと悲惨さばかりを想像しますが、生き延びた動物たちは、保護施設で、ご飯と寝る場所を見つけると、安心して、生きていることを謳歌(おうか)します。動物たちの生命力と明るさには勇気づけられました。

ドキュメンタリーの中に有名な俳優をまじえてドラマ風に構成していますが、この手法はどのようにして思いついたのでしょうか?

 動物の命や、震災について描いたドキュメンタリーはたくさんありました。重要なテーマを描いているにもかかわらず、「ドキュメンタリー」というだけで、なかなかお客さんが集まりません。なるべく多くの方に見てもらいたかったので、 小林聡美さんや上川隆也(かみかわ・たかや)さんたち、人気者に出ていただくことによって、多くの方の関心を惹(ひ)きつけられるのではないかと考えました。
 はじめは、自分でナレーションをして、取材を通して感じたことを発していくつもりでしたが、ナレーションだけでは弱いと思い、現場で取材者が感じたことを表情などを通して紹介したいと思いました。そのために、小林聡美さんにお願いしました。


▲たくさんの猫たちと対面 


▲犬をカメラに収める・・・小林聡美さん

動物愛護センター、ちばわん、犬猫みなしご救援隊などの活動について簡単におしえてください。

 動物愛護センターとは、日本の各都道府県にある、犬や猫の殺処分を行う公的機関です。「愛護センター」「管理センター」などの名称から、「生かす」施設のように誤解されがちですが、そこで行われていることは、「殺処分」です。
 動物愛護法のもと、狂犬病などがまん延しないことを目的に、飼い主のいない犬や猫の処分を行っています。しかし、近年、ごく少数ですが、処分を行わないセンターも生まれています。

■ちばわん
 関東を中心に、250名を超えるボランティアのみで活動をする動物愛護団体。2002年、多頭飼い現場を目の当たりにし、有志にて活動を開始。殺処分ゼロを目指して「繁殖に反対」「不妊・去勢手術の推進」「行き場のない犬・猫の家族探し」を掲げている。動物愛護センターからの引き出しと譲渡先探し、野良猫の不妊・去勢手術(TNR)、多頭飼育崩壊やブリーダー廃業現場での不妊・去勢手術とレスキューなど活動は多岐にわたり、2015年までに5,000頭近くの犬猫の命を救ってきた。1頭でも多くの犬猫にもう一度生きるチャンスを与えるために精力的に活動している。シェルターを持たず、各家庭で犬猫を預かる。
http://chibawan.net

■犬猫みなしご救援隊
 広島県に本拠地を置き、栃木県に活動拠点を置く、獣医師を含む専門知識の豊富な行動力のある団体として「終生飼養」と「譲渡活動」を基盤に、伴侶動物の救援活動を行う団体。1990年、代表・中谷百里が個人で野良猫の保護活動を始め、2005年、犬猫みなしご救援隊としてNPO法人を取得し、2年後に、終生飼養ホームを建設。東日本大震災発生の4日後には被災地へ入り、福島原発20キロ圏内から犬猫ほか動物1,400頭を救出。2013年から広島市動物管理センターに収容された猫全頭と譲渡対象外の犬全頭の引き出しを続行し、広島市の殺処分機の使用を廃止させ、広島市と協働して地域猫活動を行っている。また現在、広島と栃木の施設では、行き場のない犬猫あわせて1,300頭の保護育成を行っている。
http://www.minashigo.jp/

人間が犬に癒やされる話はよく聞きますが、山田監督の愛犬の場合はどのように癒やされていますか?

 仕事で疲れて帰って来ても、犬の世話があります。犬のトイレを掃除したり、ご飯を作ってあげたり・・・。疲れていても、散歩に行かなくてはなりません。でも、この「世話をする」ことが、結局は自分を癒やすことになっていると思います。
 私が帰ってくると、犬たちは「この世でこんなに嬉しいことがあったのか?」というほど、シッポを振って喜んでくれます。散歩に行くと、見知らぬ犬に出会って、びっくりしたり、猫を追いかけようとして叱られたり、そのたびに見せる表情に思わず笑ってしまいます。
 知らないうちに、緊張がほどけて、それまで自分がこだわっていたことが、どうでもよくなります。犬の見せる愛情表現の豊かさにはいつも、癒やされています。


▲映画を通して「弱いものが弱いままで生きられる社会であってほしい」と訴える山田あかね監督

この映画で、いちばん訴えたいことは何ですか?

 犬と人間は長い歴史のなかで、一番の友達でした。お互いに助け合って生きて来たのです。時に労働力になり、番犬になり。犬は人間からご飯をもらうことで生き延びた。そこには、種を超えた友情がありました。
 その犬が一方的に処分されたり、被災地に取り残されたりするようなことはあってはならないと思います。犬という身近で弱い存在をないがしろにする社会は、人間にとっても生きにくい社会だと思います。「犬の映画」と思われがちですが、自分としては、犬の命を通して、「命」そのものについて、描いたつもりです。
 昨今の日本は、「自己責任」という言葉が一人歩きして、強くなければ生き抜けない。弱いものが滅ぶのは仕方がない、という風潮があります。私は、犬や猫、老人、女性など、社会的に“弱いものが弱いままで生きられる社会”であってほしいと思います。

トロント日系文化会館で開催のカナダ上映会に期待することは?

 カナダのトロント出身の映画監督で女優のサラ・ポーリーさん(Sarah Polley)には、今回の映画を作るにあたって、影響を受けました。サラの監督作「物語る私たち」(Stories We Tell)も、ドキュメンタリーとドラマを融合させた作品です。どこまでがドラマで、どこからがドキュメンタリーなんだろうと思いながら見ました。その新鮮な手法に学ぶことが多かったです。
 また、映画「クラッシュ」(Crash)のポール・ハギス監督(Paul Haggis)もカナダ出身。敬愛する監督たちの国で上映できることはとても光栄です。
 なお、カナダには多くの野性動物がいて、動物たちに優しい国だと聞いています。トロントの保護施設なども訪問したいと思っています。
 何より、数多くの作品のなかから、「犬に名前をつける日」を選んでくださったことに感謝しています。

【映画「犬に名前をつける日」上映会】
■日時:3月10日(木)午後7時30分
■会場:トロント日系文化会館(JCCC)小林ホール
■入場料:一般$10、JCCC会員$8 
■問い合わせ:416-441-2345
www.jccc.on.ca

*上映後、山田あかね監督への質疑応答の時間があります。
*上映前、午後6時から商工会コートでJCCCファンデーション日本地震救済基金のためのチャリティーフード販売が行われます。

(2016年2月25日号)


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