【イベント・トピックス】
「ジェーン・ウォーク」に参加しませんか!
都市思想家、ジェーン・ジェイコブスさんを記念
5月6日~8日、トロントはじめ世界中で開催


 トロントで毎年5月第一週末に行われる「ジェーン・ウォーク」(以下「ウォーク」と省略)が始まってから今年で10年になる。このイベントはトロントに在住していた都市思想家、ジェーン・ジェイコブスさん(Jane Jacobs)が亡くなってから始められたもので、今年はちょうど彼女の生誕100年、没後10年に当たる。


▲トロントの Mabelle Park でのジェーン・ウォーク(Photo by Jeremy Kai、ジェーン・ウォーク提供)

 トロントは世界でも豊かな多様性を誇る都市である。大都市だけど移民たちが母国の文化伝統を保っている「小さな村」の集合体で楽しい町だとは、研究休暇をトロントで過ごした北海道教育大学の学者の観察だ。「ウォーク」はだれでもが自分たちが住んでいるところや、詳しい近隣地区(ネイバーフッド)のガイドとなって案内する機会であり、ウォークに参加して未知の地区を知るチャンスでもある。


▲メキシコシティーでのジェーン・ウォーク風景(Photo by Monica Tapin、ジェーン・ウォーク提供)

 ウォークは今やトロントだけでなく、2015年には6大陸・36カ国・189都市に広がっている。ウォーク数は合計1,000以上に増え、今年の5月には日本の東京、京都、岐阜が参加する予定になっている。


▲ありし日のジェーン・ジェイコブスさん(写真提供=Mark Trusz/Ideas That Matter)
▲ブルーの壁に立ちブルーのコートを着たジェーン。彼女のお気に入りの写真(提供=エイデルマン敏子)  


大都市プランを変更させた活動家、ジェーン・ジェイコブス

 ジェーン・ジェイコブズさんは1916年、米国ペンシルベニア州スクラントンに生まれ、後にニューヨークのダウンタウンに移る。高校卒業後、大学に進学せず就職。勤め先の一つが「アーキテクチュラル・フォーラム」という建築雑誌だったことから、建築や都市の諸問題を 観察するジャーナリストとして取材執筆を展開していった。「フォーチュン」誌の依頼で書いた「ダウンタウンは人々のものである」という論説は、大きな反響を呼んだ。

 ジェーンはボブと結婚後、ニューヨーク市グリニッジ・ヴィレッジに家を買って住む。しかし、当時、その地区が都市再開発という名目のもとに、彼女が信じる多様性豊かで人間が住みやすい近隣地区に高速道路を走らせ、味気なくしてしまうニューヨーク市のプランが持ち上がった。これに対してジェーンは大々的な抗議運動を組織した。そして勝った。彼女や仲間の活動家たちの決意と努力がなかったら、グリニッジ・ヴィレッジは保存されていなかっただろう。

 1961年に出版された彼女の著書「アメリカ大都市の死と生」は、それまでの都市開発の概念を完全に覆すことになる。スラム街を単に高層ビルに置き換えるのでなく、その住宅街に続けて人間が住み、自動車だけに占領されない豊かなコミュニティーにすべきだ、という彼女の主張は人々の目から鱗(うろこ)が落ちるほど衝撃的だった。

 ジェイコブズ一家は息子たちをベトナム戦争の徴兵から守るために1968年にカナダに移住。トロントに住み、ジェーンは1974年にカナダの市民権を取得する。

 1968年といえば、トロントではスパダイナ・エクスプレスウエーが大問題になっていた時代だ。現在は401号線からエグリントンで止まっている高速道路だが、当時、ブローア・ストリートまで南下拡張する計画があった。それを実現させるには住宅および近隣地区を壊してしまう。郊外からの車の数が増えてしまい、道路での歩行者や子供が遊ぶ姿が消えてしまうなど、問題は多過ぎた。

 ジェーンはトロントに移住後、直ちに反対運動に参加した。その結果、街中の住宅街に高速が通る計画は実現しなかった。大きな貢献を果たしたのである。


▲翻訳されたジェーン・ジェイコブスさんの著書の数々

 著書「アメリカ大都市の死と生」はアメリカだけでなく、カナダでも反響を及ぼしたので、彼女は名実共に有名人だったが、実直で仕事を重視する彼女は、「セレブになると仕事ができない。自分は仕事を選ぶ」と、数えきれない講演やテレビ出演のリクエストをことごとく断って執筆活動に専念した。ハーバード大学をはじめ12の名門校からの「名誉博士号」申し出もすべて辞退した。

 2006年に89歳(90歳の誕生日の一週間前)に亡くなったときも2冊の本の原稿を執筆中だった。

「ジェーン・ウォーク」のスタート

 1997年には彼女のアイデアを尊重し、認識向上を目的に「 Ideas That Matter: The Worlds of Jane Jacobs 」(重要なアイデア:ジェーン・ジェイコブズの世界)と称するイベントがトロントで1週間開催された。数十カ所以上の異なる会場で座談会、レクチャー、ケーススタディー、新アイデアの考察など、老若男女が大勢参加して健康な町づくりりとは・・・についてディスカッションした。

 ジェーンの没後、彼女の功績をどうやってたたえるべきか? 読書家だった彼女の名前を図書館につける運動をすべきか? ある公園を彼女の名にするか?・・・など種々の提案があった。しかし、彼女はそうした形式的なことを嫌っていた。

 彼女が一番希望したことは、自分の本を読んでほしいということだった。それから、彼女はトロントだけでなく、あちこち散歩をして町の様子を好んで観察した。老後、足腰がおぼつかなくなっても、彼女はウォーキングを続けた。「ジェーン・ウォーク」はそこからアイデアを得ている。


▲ジェーンさんの家族が住んでいたトロント市ブローア×バサースト地区の家。ジェーンさんを記念したプラークが元自宅の前庭に立っている

 ジェイコブズ一家がトロントに移住してからジェーンが亡くなるまで住んだのが、アネックス地区の 69 Albany Avenue である。今は新しい家族が購入して住んでいるが、重要史跡や大きな貢献をした市民の記念碑としてヘリテージ・トロントが設置するブルーの記念プレートが前庭の歩道寄りに立てられている。プレートは5月のジェーン・ウォークの時だけでなく、Albany Avenue を通る人々の足を止めている。


▲トロント市内を大人、子供、犬もウォーク(Photo by Vic Gedris、ジェーン・ウォーク提供)

 今年のジェーン・ウォークは5月6日(金)、7日(土)、8日(日)の3日間行われる。ジェーンの目線,アイデアを思いながら新たな気持ちでトロントを歩いてみてはいかがでしょう。

〈ジェーン・ウォークの日程と集合場所〉*3月26日現在の資料より

こちらをクリックしてください。

さらに詳細を知りたい人は、下記ウェブサイトをご覧ください。

http://janeswalk.org/canada/toronto

http://janeswalk.org

〈ジェーン・ジェイコブスの代表的な著書=翻訳版〉

「アメリカ大都市の死と生」(鹿島出版会)
「都市の経済学」(鹿島出版会)
「経済の本質」(日本経済新聞社)
「都市の原理」(鹿島出版会)
「市場の論理+統治の論理」(日本経済新聞社)
「壊れゆくアメリカ(日経BP社)

〈まとめ・編集部、取材協力・エイデルマン敏子〉

(2016年4月14日号)



 
 


 
 
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