相続法の基礎知識・オンタリオ州編(その19)
ペットは相続人になれるか?


〈オンタリオ州弁護士・スミス希美(のぞみ)〉

 残されたご家族のケアは、遺言書の内容を考えるときに考慮する第一の材料だと思います。この「ご家族」の一員に、愛するペットが含まれる方も多いのではないでしょうか。今回は、あなたの死後に残されたペットについて、エステートプラニングの視点からお話しします。

 ハリウッドのスターや世界の大富豪が亡くなり、遺言書の中で、残されたペットに大きな遺産を残して話題になることがあります。
 2007年に亡くなったアメリカのホテル女王、レオナ・ヘルムズリーさん(Leona Helmsley)は、1,200万米ドルを愛犬のマルチーズ、その名も「トラブル君」に使うように遺産を託した遺言書を残し話題になりました。その後、遺族側がレオナさんが遺言書作成時に心神喪失状態にあったことを理由に訴えを起こし、その結果、裁判所は、愛犬用の遺産額を200万ドルに減額しました。




 遺言書は、死後に残された財産を処分するための法的文書です。生き物であるペットは、飼い主が亡くなった後も引き続きお世話が必要です。そこで、遺言書の中で、愛するペットについてどうするかを決めることができます。

大原則:ペットは「財産」である
 まず、ペットの法的扱いですが、ペットは「財産」(Property)であり(厳格には、動産=Personal Property)、個人や法人のように法的人格はありません。そのため、「財産」は他の財産を所有できないという理由から、ペットは相続人(Beneficiary)になることはできません。
 したがって、「私の愛犬ポチに2万ドルを遺(のこ)す」や、「自宅は愛犬タマに相続させる」という遺言を残しても、そのような遺贈は無効になります。それでは、死後に残されたペットが心配な場合、どのような準備が必要になるのでしょうか。




1.家族や遺言執行人にペットについて知らせておく
 「もしも」のことがあった場合に備えて、遺言書の保管場所、利用銀行の名前、不動産やモーゲッジについての情報など、大事な財産情報をまとめておくことは、残されたご家族や遺言執行人にとって、救いの手となります。
 ペットについても同様で、ペットの名前、ふだん預かってくれるペットの世話人、かかりつけの獣医の連絡先、ペットの食事時間や服用中の薬などについてもまとめておくと、残されたご家族は助かるでしょう。




2.新しい飼い主を指名する
 最も一般的なのは、遺言書の中で、家族や友人など、自分の信頼する人にペットを遺(のこ)す方法です。親の死後に未成年の子の親権者を指名するのと同様に、誰にペットの新しい飼い主になってもらうか指名することができます。ちなみに、遺言書を残さずに亡くなった場合、ペットも遺産の一部として、法定相続人に相続されることになります。




3.新しい飼い主に現金を一緒に遺す
 生き物であるがゆえ、ペットの世話には、食費や医療費など、何かとお金がかかります。そこで、遺言書の中で、新しい飼い主に対し、感謝のしるしとお世話のための初期費用として、現金を一緒に残すのもよいでしょう。

 なお、遺言書を残さずに亡くなることの大変さについて、本欄を通して何度も触れてきましたが、ペットの問題も例外ではありません。
 私が担当した相続の問題でも、遺言書を残さずに亡くなった方が、ペットを残されたことがありました。里親が見つかるまでのお世話代や医療費が必要になった際、ペットのための費用の支払いをいくつもの銀行にお願いしましたが、どの銀行もそのような支払いを聞き入れてくれませんでした。その結果、遺言執行人が大きな立て替えをしなければならなかったことがありました。

 通常、遺言書を残さずに亡くなると、いったん故人の銀行口座は凍結されますが、自宅の光熱費や火災保険費、税金など一定の必要経費については、銀行が口座からの支払いを許可してくれます。しかし、ペットの世話費や医療費は、「遺産」の保全費用であるのは確かですが、実際問題として、銀行がそのような支払いを承諾するのは難しいようです。




4.ペットのために信託(Trust)を設立する
 あまり一般的ではありませんが、愛するペットが生涯不自由なく生活できる資金を遺産の一部から残して信託に入れ、その信託資金の管理をする受託人(Trustee)のもと、ペットのための資金を管理するという方法もあります。
 ペットは相続人になれないため、信託では、新しい飼い主を相続人として、資金の使い方について細かい条件をつけることが可能です。そして、ペットが亡くなった時点で、信託が終了することになります。




 このように、ご自分の死後、残されたペットのことが心配な方は、遺言書の中でペットのことを盛り込んで準備するとよいでしょう。

【おことわり】
このコラムを通して提供した情報は、一般的及び教育的な目的として提供された情報であり、著者及びダーモディ法律事務所による読者個人への法的意見又は見解を示すものではありません。特定の事実関係につき法的助言を含む専門的助言を必要とする方は、ご自身の弁護士・会計士等の専門家へ直接ご相談ください。また、カナダの遺産相続に関する法律は州によって異なりますので、当コラムで提供する情報はオンタリオ州の法律に限られていることをご了承ください。

【著者略歴】

▲スミス希美弁護士
スミス希美(のぞみ):福岡県出身。中央大学法学部を卒業後、トロント大学ロースクールに留学し、ジュリス・ドクター及び法学修士号を取得。その後、2010年にオンタリオ州の弁護士資格を得る。現在、ハミルトン市の Dermody 法律事務所で、遺産相続・信託法を専門に活躍中。遺言書、委任状、贈与などのエステートプラニングや遺産の管理・処分に関する相談などを取り扱う。
〈連絡先〉電話 : 905-383-3331(内線)226
Email : zoe@dermody.ca
Website : www.dermody.ca


【編集部より】「知っておきたい相続法の基礎知識」シリーズ、「第1回 なぜ遺言書が必要か?」から「 第18回 亡くなった後に残された不動産の処理 遺言書と委任状を一緒に作ることが大切」までの記事は、アーカイブの「相続法の基礎知識」をご覧ください。トップページ「今週のトピックス・目次」の下の「過去のトピックスはアーカイブをご覧ください」をクリックすると見られます。

(2016年4月21日号)



 



 
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