「もっと多くの外国人観光客に温泉を楽しんでもらいたい」
草津温泉観光協会・中澤敬(なかざわ・たかし)会長


〈 取材・色本信夫 〉

  草津よいとこ 一度はおいで〜♪ 
 日本人ならだれでも知っている「草津節」である。訪日する外国人が年間2,000万人近く(2015年)を記録するなど、急激に増大した観光客。草津温泉でも、日本人客と併せて外国人ツーリストの受け入れ促進の強化に力を注いでいる。
 群馬県草津町を訪れ、草津温泉観光協会の中澤敬(なかざわ・たかし)会長にお話をうかがった。中澤氏は2002年から2010年まで二期8年間、草津町長を務め、現在は草津温泉ホテル&スパリゾート・株式会社 中沢ヴィレッジの代表取締役会長である(取材は4月11日に行いました)。


▲草津温泉観光協会の中澤敬(なかざわ・たかし)会長

 まず、草津温泉について簡単に説明していただいた。
 草津は長野県の県境に近く、白根山のふもとにある温泉で知られる町である。その歴史は古く、古墳時代から人々は温泉を利用していたといわれる。奈良時代、鎌倉時代を経て、江戸時代になると、八代将軍吉宗のお気に入りだった話は有名。そのほか俳人・小林一茶、「東海道中膝栗毛」の十返舎一九、幕末には佐久間象山といった有名人たちが草津を訪れている。
 明治時代になって、ドイツ人医師で日本政府により東京医学校(東大医学部の前身)教授として雇われていたエルヴィン・フォン・ベルツ博士が草津とその温泉の効能を高く評価し、世界に広く紹介。草津温泉は一躍、国際的に知られる存在となる。以来、志賀直哉、高村光太郎、竹久夢二など著名な作家や芸術家などが草津温泉を楽しんできた。
 泉質は、酸性泉、硫黄泉で、皮膚病、神経痛、糖尿病に効くといわれる。


▲温泉街の中心にある草津のシンボル、湯畑(ゆばたけ)。立ちのぼる湯けむりが温泉情緒を演出する


▲湯滝。湯畑から勢いよく流れ落ちる温泉が豊富な湯量を物語っている

草津は8年連続で温泉番付1位に選ばれていますが、その理由は?
 「温泉番付」は日本観光新聞主催で公正な審査が行われ、日本政府の観光庁が後援しているコンテストです。草津が連続して入賞しているわけは、泉質が優れていること、お客が温泉に入った感覚が良い、ホテル・旅館の質も優れていると評価されたからです。
 草津は温泉の「量」と「質」を誇りとしています。従来の観光から、ブランドに磨きをかけるようになりました。そこで、いちばん大切にしているものは町民憲章です。


▲湯畑の横に掲示してある草津町民憲章。東山魁夷(ひがしやま・かいい)の書

町民憲章とは?
 「歩み入る者にやすらぎを 去り行く人にしあわせを」です。これは本来、父・中澤清の中沢ヴィレッジの社是でした。父が草津町長だった当時、1979年から町民憲章というかたちで町が制定したのです。父は町の財政立て直しをするため、町長選挙の時もこの町民憲章の制定を強く訴えました。
 町民憲章には草津町民の理念実践5原則があります。(1)町の安全、(2)町の清潔、(3)町の親切度、(4)町民全員による売り込み、(5)町民全員の節約、です。

町民憲章でどのような成果があったでしょうか。
 5原則をもとに草津温泉のブランドを作るための土台づくりをし、ブランドのエクステンションを図りました。近くに人気の高い草津国際スキー場などがあることから「スキー」と「温泉」を結びつけました。
 夏には「草津夏期国際音楽アカデミー・アンド・フェスティバル」を開催、今年で37回目となります。今年は「イタリアからイタリアへ」をテーマに、イタリアが作曲家に与えた影響は何かを探るイベントです。天皇皇后両陛下も参加される予定です。  さらに、日本プロサッカーリーグ「ザスパクサツ群馬」(THESPA Kusatsu Gunma)を創立してスポーツファンにPRを行っています。


▲草津温泉のゆるキャラ「ゆもみちゃん」


▲草津名物「湯もみ」ショー

 8年ほど前からゆるキャラの「ゆもみちゃん」も登場して、草津の観光促進に努めています。ゆもみちゃんは、温泉ご当地キャラクター・ランキングが3年連続で得票数1位に輝いています。
 ブランドを伸ばす材料としては、温泉の中心にある草津のシンボル「湯畑(ゆばたけ)」は強力な観光スポットですし、草津名物の「湯もみ」ショーも人気が高いです。


▲湯畑からお土産店の通りを過ぎて登っていくと西の河原(さいのかわら) 


▲西の河原露天風呂。男湯と女湯に分かれている。写真は男性用露天風呂(この写真は草津温泉観光協会のパンフレットより)

 また、源泉掛け流しで知られる「西の河原(さいのかわら)露天風呂」「大滝乃湯」「御座乃湯(ござのゆ)」を訪れる人も多いです。お土産には温泉まんじゅうや湯の花などが人気です。

外国人観光客の草津訪問者数は?
 昨年(2015年)草津を訪れた外国人観光客は、1年間で3万1,633人と記録されています。前年比161%増です。ただし、この数字には、日帰りのお客様は含まれていないので、実際にはもっと多いはずです。軽井沢から日帰りで来るお客様もけっこう多いし、足湯につかって楽しむ人も増えています。


▲湯畑の横にある足湯の小屋。誰でも自由に足を温泉の湯につけることができる

 海外からの草津訪問者数ランキングは、1位=台湾、2位=香港、3位=中国の順になっています。カナダからのお客様は、現在のところ、あまり多いと言えません。これからのインバウンドは、カナダを含む欧米を対象に草津誘致のPRを強化していくことになるでしょう。目下、検索システムを高める活動も実施しているところです。

外国人宿泊客への応対で心がけている点は?
 先ほど申し上げた5原則のひとつ「親切」を尽くすために最大限の努力をすることです。国際化の持つ重要性は、言葉ではなく、初めて会った人にいかに親切心が発揮できるかだと思います。
 そして、今後の課題は文化度の向上、とくに食文化を高める努力が必要です。今までは豪華な食事が日本料理だと言われてきたようですが、もっと健康を意識した、例えば野菜がメインの料理なども必要になるのではないでしょうか。今までは「温泉」が重要でしたが、これからは食べる楽しみも取り入れて、温泉のホテル・旅館に泊まれば、日本の文化が十分に理解してもらえるといった総合的な考えでお客様をおもてなししたいです。

タトゥーをした外国人は多いですが、浴場における規制は?
 タトゥー(入れ墨)に関しては、規制している浴場と、とくに規制を設けていない浴場があります。各ホテル・旅館では、旅館協同組合で統一した決まりがないため、個々に対応している状況です。事前に組合へお問い合わせをするお客様は、日本の文化を分かっていらっしゃる方がほとんどなので、貸し切り風呂のあるお宿を紹介しています。
 日本人にとってタトゥーは、もともと「やくざ」からきていましたが、昔から比べると、だいぶ意識は変わってきていると思います。今はファッションのひとつ。ですから認識を変えていかなくてはなりません。
 海外で訪日観光客の誘致業務をしている日本政府観光局(JNTO)などで、あらかじめ日本の温泉の対応など、現状を説明していただけると、ありがたいです。

最後にひと言、どうぞ。
 温泉を通じて日本文化をもっと世界に知らしめたいですね。今や「ONSEN」(オンセン)は「KARAOKE」「TSUNAMI」などと同様に世界共通語となっていますが、もっと外国人に知ってもらいたい。
 日本語で「あたたまる」は、「Get warm」、湯船にゆっくりつかってあたたまる。この習慣が健康にも良いのです。温泉の恵みを世界に発信していきたいです。
 昨年(2015年)の訪日外国人の数は1,974万人で、「東京オリンピック開催の2020年に2,000万人」という目標が5年前倒しでほぼ達成されました。そこで、日本政府は3月30日、訪日外国人観光客数の目標人数を一気に倍増させ、「2020年4,000万人、2030年6,000万人」とすることを決めました。
 フランスでは現在、年間8,000万人といいますから、ゆくゆくはそうなりたいですね。日本独自の「おもてなし」を基本にして努力すれば、フランスのようになるのは決して不可能ではないと思います。

■草津温泉観光協会ウェブサイト
www.kusatsu-onsen.ne.jp/

(2016年5月12日号)
 



 
 


 
 
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