前田典子の「書」談義(第3回)
個性を表現する「書」


東京ガーデンテラス紀尾井町三谷

 東京の旧赤坂プリンスホテル一帯は今年の7月1日、「東京ガーデンテラス紀尾井町」としてオープンします。写真は、その一角に店を構える「紀尾井町 三谷」のロゴタイプです。
 「紀尾井町」という由緒ある地名を流麗な行草体で、メインの「三谷」は本家「四谷鮨三谷」のロゴとの統一感を持たせた金文という重々しい書体で、お互いが引き立てあうよう揮毫(きごう)しました。




森山ヘリテージセンター

 全く違う印象ですが、トロント日系文化会館内の「森山日系ヘリテージセンター」も「書」を使ったロゴマークです。建築家のレイモンド森山氏とのディスカッションを約一年間続け、力強さ、自然な筆のラインの美しさをベースに、日本の漢字の特徴である「意味」を内に秘めた表現でデザインしました。




 ロゴタイプ、ロゴマークを作る場合、一見して認識できるインパクト、そしてそのインパクトが残像として脳裏に残り、その残像が快適な印象を作り出す、という要素が必須です。
 一年間にわたる制作過程で、日本的なひらがなによる表現、カナダの日系社会をアピールするカタカナの表現も試行錯誤しました。
 最終的には、悠久の昔から受け継がれてきた漢字自体のエネルギーに、現代的なデザイン、創造性を加えた仕上がりになりました。




 トロント日系文化会館内には、ほかにも、小林ホール、もと通り、池田タワー、トロント日本映画祭、桜ガラなどの「書」を使ったロゴタイプ、ロゴマークが所どころにあります。それぞれの用途、コンセプトに即して書体に変化を持たせ、個性を表現しています。




四谷鮨三谷

 前述の「紀尾井町三谷」の本家「四谷鮨三谷」はなかなか予約が取れない、スティーブ・ジョブズも常連だった店。そのロゴタイプの依頼は「福相のぽっちゃりした書体で」「わかる人にだけ読める文字で」という一風変わったものでした。「三」を古い金文の書体にし、墨を筆にたっぷり含ませて「福相」の個性的なロゴタイプが出来上がりました。




 三谷では毎日ご来客の数だけコースターに篆刻(てんこく)の印を押します。その印はロゴタイプと同じ時代の書体を使いながらも、雰囲気をガラリと変えて、凛(りん)とした厳しい線の組み合わせで刻しました。




 コンピューターフォントの文字を日常的に目にする現代、手書きの文字、筆で書かれた文字は大いに存在感があり、個性を表現することができます。
 今回ご紹介したロゴタイプ、ロゴマークに限らず、気持ちを込めた手紙やメモや添え書きが、個性ある手書きの文字で書かれていれば、書き手の心が一層相手に伝わると思います。

〈7月7日号につづく〉

■前田典子プロフィール
 書家。書を真神魏堂(まがみ・ぎどう)、亀山冨美、続木湖山に師事。篆刻(てんこく)を笠井雋堂(かさい・しゅんどう)に師事。1976年から東京でフリーランスコピーライター。1982年書道会「匂蘭の会」(くらんのかい) 主宰。1992年カナダ移住、オンタリオ州ウオータールー在住。三井不動産、野村不動産、東急不動産などのプロジェクトでインテリアの書を制作。タケダカナダ、MAC Cosmetics、CBC などにビジュアル提供。日本、カナダ、アメリカ、アラブ首長国連邦(UAE)などで展覧会、プロジェクト、ロゴタイプ作成。
http://www.norikomaeda.com

【編集部より】「前田典子エッセー」シリーズ、「第1回 紙に筆と墨で書く『書』の概念を払拭」「第2回 進化する『書』」の記事は、アーカイブの「アートエッセー・前田典子の『書』談義」をご覧ください。トップページ「今週のトピックス・目次」の下の「過去のトピックスはアーカイブをご覧ください」をクリックすると見られます。

(2016年6月2日号)



 



 
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