ジプシージャズのギタリストとして活躍する
日系カナダ人、有櫛王人(ありくし・たくひと)さん


〈インタビュア:デムスキー恵美〉

 開催30周年という記念すべき年にふさわしい顔ぶれと、国際色豊かなラインナップが勢ぞろいした今年の「トロント・ジャズフェスティバル」。ヘッドラインを飾るスターアーティストたちのほかに、大きな期待を持って迎えられるのが次世代をになう、才能あふれる新進ミュージシャンたちの登場だ。


▲ジプシー・ジャズのギタリスト、有櫛 王人(ありくし・たくひと=Tak)さん

 ジプシージャズの若手のホープとして注目される、バンクーバー生まれの日系人ギタリスト、有櫛王人(ありくし・たくひと)さんもその一人。有櫛さんは2013年、音楽活動の場をバンクーバーからトロントに移し、バンド「レ・ペティット・ヌーヴォー」(Les Petits Nouveaux)に加入。以来、ジャズクラブを中心に精力的な音楽活動を続けている。有櫛さんは、カナダ社会では「タク(Tak)さん」の愛称で親しまれている。


▲Les Petits Nouveaux のメンバー。(左より)Andy MacDonald、Jim Sexton、Tak Arikushi、Aline Homzy の皆さん

 ジャズフェス前のお忙しいスケジュールの合間を縫って、ジプシーの伝統音楽とジャズを融合させた、その軽快で情熱的なフランス生まれの音楽の魅力、そして、有櫛さんご自身の音楽体験についてお話をうかがう機会を得た。

タクさんの楽器との出会いは何歳のころですか
 本格的にギターの練習を始めたのは12歳のときです。それ以前も、趣味で楽器に触れることはありましたが、子供の僕が一生懸命、ギターを弾いている姿をみて、グレード6のとき、親がレッスン先を手配してくれました。家の中で楽器を弾くひとがいたり、音楽がいつも流れているという環境ではなかったですが、家族のサポートは常にありました。

タクさんにとっての10代はどんな時代でしたか
 そうですね、スポーツでは BMX(小型競技用自転車)を乗りまわしたり、そのころはどちらかというと、グループ競技よりも個人競技に興味があったような気がします。音楽に関しては、ハイスクールで3つのバンドに所属し、エレクトリックでヘビメタからパンクまでいろいろ演奏しました。一番好きだったバンドは「メタリカ」ですね。10代は、ヘビメタひとすじの時代でした(笑)。

本格的に音楽を学ぼうと決心したのはいつごろですか
 ハイスクールの後半、将来の進路を決めるにあたり、いろいろ考えましたが、音楽以外、得意な分野が見つかりませんでした。音楽のなかでもクラシックとジャズという選択がありましたが、ジャズ表現の自由さに魅(ひ)かれ、キャピラノ大学でジャズ科を専攻しました。

大学で正式な音楽教育を受けプラスになったと感じる点は?
 入学当初は、レッスンを受けていたころと比べ、大学での教育レベルの高さを身をもって感じましたが、同時に、大学を通して広がっているネットワークの大きさにも驚きました。将来、プロとして活動してゆくためには、このネットワークにつながるコネクションが大きな助けになるからです。もう一つは、プロのレベルがはっきりつかめたことですね。レッスンを受けている時点では、「井の中の蛙(かわず)大海を知らず」で、これがわかりませんでした。


▲タクさんの演奏風景

プロの道を歩もうと決心したのは大学在学中ですか
 大学で学んでいる途中までは、将来、プロの演奏家としてやっていくかどうかは決めていませんでしたが、卒業前、仲間に誘われ、クラブなどキャンパス外での演奏を重ねていくうち、次第に感覚がつかめ、自信がついてきました。この現場での経験が現在につながる大きな原動力となりました。また、父親が版画家ということもあり、「好きな道を歩むのが一番の幸せ」というサポートをもらえたことも大きかったです。

ジプシージャズの特徴と魅力を教えてください
 基本的なジャズトリオは、ピアノ、ベース、ドラムで編成されますが、ジプシージャズの演奏では、ほとんどの場合、ドラムやピアノは加わらず、ギター、バイオリン、ベースなどの弦楽器が主流になります。そのため、ギターがリズムセクションを引き受けることになるので、弾き方もリズミックで独特なものになります。複数のギターがかもし出す切れの良い、アップビートなサウンドが特徴でもあり、魅力でもあると思います。

タクさんがもっとも強い影響を受けたアーティストは?
 大きな影響を受けたアーティストは、ジャンゴ・ラインハルトと ビレリー・ラグレンです。もちろん、ジャンゴはジプシージャズの創始者ですから、影響を受けざるえません。毎日聞いても飽きることはないし、今でもジャンゴの果てしない創造性を超えられる人は少ないと思います。ビレリーの場合は、彼のジプシージャズとモダンジャズを組み合わせたスタイルが大好きです。驚異的なテクニックとジャンゴのような果てしない創造性を有する人々から、もっとも大きな影響を受けました。


▲トロント・ダウンタウンのオスカー・ピーターソン・プレースにて、タクさん

トロントでは若い世代の音楽教育にも力を注いでいらっしゃるそうですが、「教える」ことから学んだことは?
 長い経験の積み重ねから学んだことですが、まず教える側が自分自身の演奏を分析し、音楽性やテクニックをよく理解することが大切であるということですね。生徒さんは、一人ひとりが違っています。こうして培(つちか)った分析する能力や理解力を生徒さんと分かち合うことで、生徒さんが音楽上の問題に直面した際など、それを冷静に理解し、いっしょに克服しながら、次の段階へとレベルアップしてゆくことが容易になるからです。

近い将来、力を注ぎたいこと、楽しみにしているプロジェクトは?
 僕が演奏に加わっている「iSpy」というバンドがカナダ政府からの助成金で、現在、アルバムを制作中なのですが、その完成を楽しみに待っているところです。もう一つは、トロント・ジャズフェスで演奏する「レ・ペティット・ヌーヴォー」がオンタリオ州のアーツカウンシルからアルバム制作のための助成金を受けられることが決定しました。これから制作準備にとりかかるところですが、こちらもとても楽しみです。
(Text : Emi Demski)

※「レ・ペティット・ヌーヴォー」の演奏日程
【Les Petits Nouveaux】
会場:Second Cup Coffee Co.
287-289 King Street West, Toronto (John St.の交差点)
日時:7月1日(金) 午後1時より
入場料:無料
www.torontojazz.com

(2016年6月16日号)



 
 


 
 
(c)e-Nikka all rights reserved