【復活祭】

タイトル


〈オンタリオ州弁護士・スミス希美(のぞみ)〉

 「亡くなった後のプロベイトを避けたいので、家や銀行口座などの財産は、やはり子供との共有名義にすべきですか?」「子供と財産をジョイントにしておけば安心ですよね?」
 このような質問を日頃の実務や遺言状セミナーでよく受けます。今月は、成人した子供と所有する「共有名義の財産」(Joint Asset / ジョイントアセット)についてお話します。




 本欄第7回(http://www.e-nikka.ca/Contents/150416/topics_04.php)で、「プロベイト」(Probate)という裁判所での遺言書の登録・確認手続きを取り上げ、その回避策としての共有財産の利用について簡単に触れました。

 銀行の預金口座、投資商品、不動産など、夫婦間や親子間で広く利用されている共有名義の形態として、生存者受取権付含有(がんゆう)(Joint Tenants With Right Of Survivorship、通称=JTWROS )と呼ばれる共同所有権があります。

 この JTWROS 型の共有名義の特徴は、共有名義人の一人が亡くなった場合、残された共有名義人に共有財産の権利が自動的に移る仕組みになっています(生存者受取権 Right of Survivorship と呼ばれる)。例えば、自宅の名義が夫婦共同の場合、夫婦が生存中は、所有権はそれぞれ50%ずつを有しますが、仮に夫が先に亡くなった場合、残された妻は100%の所有権を持つことになります。




共有財産の利点
 上記のような、JTWROS 型の共有財産の魅力は、遺言書を使わずに所有権を変更し、財産を処分できることや、プロベイトの対象にならないため、プロベイト税(オンタリオ州は遺産価値の約1.5%)を節約できることなどがあげられます。




共有財産のリスク
 夫婦間では、一般的にお互いに財産を遺(のこ)し合うことが多いため、死後に共有財産の問題が生じることはまれです。しかし、財産が親と子供との共有名義になっていた場合、生前・死後ともにさまざまな問題が生じます。以下、この親子間の共有財産を利用する際の難点を「9つのD」としてご紹介します。

1.Disaster(大惨事):
 不動産を売ったり、家を担保にお金を借りたい場合、共有名義人の同意・協力が不可欠です。もし親子関係に問題が生じた場合、たとえ家を売りたくても、子供の署名がないと家を売ることはできません。




2.Death(死亡):
 もし子供が親より先に他界したり、親子ともに同じ事故で亡くなった場合、残された共有財産の行方について、意図が分からなくなることがあります。




3.Divorce(離婚):
 子供の別れた夫・妻から、子供が名義人になっている共有財産が財産分与の対象になると請求される可能性があります。




4.Debts(借金):
 子供が破産した場合、その子供と一緒に名義人になっている共有財産が、債務返済のための対象財産として含まれる可能性があります。




5.Disposition(処分):
 通常、自宅を売却した場合、その売却金については、自宅免除(Principal Residence Exemption)が適用され、インカムタックス上、キャピタルゲインが課税されません。しかし、すでにマイホームを持っている子供が新たに親の不動産の名義に加わると、親の自宅を売却した場合に、自宅免除が全面的に適用されなかったり、部分的にしか適用されなかったりする恐れがあります。




6.Disability(障害):
 共有名義人のうち一人が意思不能になったり、意思不能になった名義人の財産代理人(Attorney for Property)が介入した場合、財産の処分をしようとすると困難が生じることがあります。




7.Distant Memory(遠い記憶):
 親が死んだときに残された共有財産は、名義人になっている子供のものか、それとも遺言書にある相続人の間で分け合うのか? 自分の死後の共有財産の行方について、その記憶を明確に記録していますか。




8.Disbursements #1(支出その1):
 共有名義に変更するための費用、節約できるプロベイト税の額、共有名義にしたために生じる訴訟費用、もしくは、共有財産の紛争予防のための契約書の作成など、共有財産を持つことは本当に得なのか、さまざまなコストを考える必要があります。




9.Disbursements #2(支出その2):
 もし子供が共有名義の不動産を自分のために改築・修繕してお金を使った場合どうなるでしょうか。子供が多額のお金を使ったことにより、自分の所有権を主張することがあります。




   このように、親子間での共有財産にリスクは付きものです。予想外の税的もしくは法的結果を招くこともありますので、十分注意が必要です。1.5%のプロベイト税の節約のつもりが、キャピタルゲインや訴訟費用に、それ以上のお金が消えてしまったというのはよくある話です。

 また、最近では、警察の高齢者虐待担当部が、子供による財産の不正使用を防ぐため、親子間でのジョイント口座の利用は避けるように呼びかけています。
 親子間で共有名義の財産を持つ場合は、共有財産についてのご自身の意思を明確に書面で記録しておくことが重要です。

【おことわり】
このコラムを通して提供した情報は、一般的及び教育的な目的として提供された情報であり、著者及びダーモディ法律事務所による読者個人への法的意見又は見解を示すものではありません。特定の事実関係につき法的助言を含む専門的助言を必要とする方は、ご自身の弁護士・会計士等の専門家へ直接ご相談ください。また、カナダの遺産相続に関する法律は州によって異なりますので、当コラムで提供する情報はオンタリオ州の法律に限られていることをご了承ください。

【著者略歴】

▲スミス希美弁護士
スミス希美(のぞみ):福岡県出身。中央大学法学部を卒業後、トロント大学ロースクールに留学し、ジュリス・ドクター及び法学修士号を取得。その後、2010年にオンタリオ州の弁護士資格を得る。現在、ハミルトン市のDermody法律事務所で、遺産相続・信託法を専門に活躍中。遺言書、委任状、贈与などのエステートプラニングや遺産の管理・処分に関する相談などを取り扱う。
著者への連絡は、下記まで。
〈連絡先〉電話 : 905-383-3331(内線)226
Email : zoe@dermody.ca
Website : www.dermody.ca


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(2016年6月16日号)



 
 


 
 
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