前田典子の「書」談義(第4回)
カナダの「書」




Second Wave / 二番目の波

 2013年、東日本大震災から二年が過ぎた時、被災地の今をドキュメントしたテレビ番組がカナダで企画されました。 CBC、the fifth estate の「Second Wave / 二番目の波」です。
 地震、津波のあと、海を漂流しカナダ西海岸に打ち寄せられた船やコンテナ、ボールや生活用品・・・さまざまな漂着物を通して、二年の時が過ぎた東日本大地震のその後を考えるドキュメンタリーでした。 その番組のタイトルを英語と日本語で揮毫(きごう)しました。



 超高速カメラが筆の動き、墨のにじみを捉(とら)え、津波にオーバーラップさせてタイトルを浮かび上がらせる手法でした。
 ディレクター、カメラマンはタイトルに筆と墨のタッチで映像をスタートさせる企画を最初から考えていたそうです。
 もう一点、ディレクターからのリクエストは、「二番目の波」の「番」「目」の文字のストラクチャーと、津波ですっかり洗われて鉄筋の骨格だけが残った建物のストラクチャーをオーバーラップさせてほしいというものでした。




広く真っ暗なスタジオで
書家はひたすら筆を動かし、なんどもなんども文字を書く、
カメラマンはじっとカメラで筆の動きを追う、
ディレクターはモニターを見つめながらイメージを固める。
 三者三様、違う視点、違う視線で一本の線の動きを見つめ、プロフェッショナルがそれぞれのプロフェッションで画面を作り上げていく貴重な体験でした。




 「書」には馴染みの浅いカナダ人のスペシャリスト達が「書」のダイナミズム、シンプリシティーを実に見事に捉え最大限の効果を画面に出してくれたことは大いに感服するところでした。
と同時に、
 東日本大震災のその後をカナダ人の目で捉え、被災地の様子を世界に発信していただいたことに心から感謝しています。




MAC コスメティックス

 MACはカナダ発祥のおしゃれでプロのメイクアップアーティストに人気の化粧品メーカーです。そのMAC主催のカスタマー、メークアップアーティストへのイベントで「水」「愛」をテーマにしたダンサー二人によるパフォーマンスがありました。
 筆の代わりにデジタルペンで、紙の代わりにダンサーの舞うステージの背景の壁に文字やイメージを書いていくという「書」と「舞」の、そして振付師、ダンサー、コンピューターテクニシャンとのコラボレーションでした。
 文字の持つ意味やエネルギーをダンサーの動きに連動させて「書」を異次元に昇華させるようなプロジェクトでした。




「書」はもともとタッチアップのない「一発勝負」です。
しかも、オーディエンスの前でのパフォーマンスはやり直しのきかない「一期一会」。
 虚空の中にバーチャルな文字を書くフィーリングは、そこには何百人ものオーディエンスがいるにもかかわらず、「孤高」の境地を体感したモーメントでした。
 このプロジェクトも、カナダならではの発想、アレンジメントで「書」が現代的にアピールしたイベントでした。




カナダの「書」

 上記の文中の「孤高」の文字を枯れたひまわりの茎(くき)で書いてみました。整った筆のタッチとは趣を異にする渋みのあるテクスチャーをひまわりの茎が描いてくれました。
 日本にいたら、おそらく筆以外の道具で書くチャンスはなかったかもしれません。カナダに暮らすことでその自然に啓発されたり、違う発想の人々に影響を受けていろいろな「書」の表現に出会うことができました。


▲「孤高」

 枝先が三又になったゴマの枯れ枝で書いた古代文字の「楽」はなんとも楽しげで、リズミカルな仕上がりになりました。


▲「楽」

今回はカナダならではの「書」をご紹介しました。

【編集部より】「前田典子エッセー」シリーズ、「第1回 紙に筆と墨で書く『書』の概念を払拭」から「第3回 個性を表現する『書』」までの記事は、アーカイブの「アートエッセー・前田典子の『書』談義」をご覧ください。トップページ「今週のトピックス・目次」の下の「過去のトピックスはアーカイブをご覧ください」をクリックすると見られます。

(2016年7月7日号)



 
 


 
 
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