アンコール詣で (前編)
遺跡に見るカンボジア王朝の歴史
寺院アンコールワット/城塞都市アンコールトム


〈 トロント 成松寿子 〉  

 「アンコール(またはクメールとも言われる)王朝は9世紀に始まり栄華を極めた後、13世紀半ばに衰退して、豪華な宮殿、寺院は顧みる人がいなくなり、長い眠りに就きました。

 その建物の上を飛んだ小鳥は、屋根の上にポトンと種を一つ落としました。その種は南国の高い気温で発芽し、根が水を求めて下に下にと伸び遂に地面に根付きました。一方、幹は太くなり枝が分かれ、上へ、横へと伸び、果ては樹木の力で建物を破壊し始めたのです。

 長い年月を経て、密林をかき分けてアンコールワットへ近づいた探検家が見たものは、自分の背丈より高い雑草の中に、天まで届くかと思われる樹木が絡みつき、あちこちの壁が落ちかけ、いまにも全体が崩れ落ちそうな巨大な石の建物でした」

 ───受け持ちの先生のお話が忘れられません。その時、「いつかアンコールワットへ行かなければ・・・」と、小学5年生は固く心に誓ったのです。そして、ついに実現しました。

○    ○    ○

 訪れた日は、カンボジアのお正月(2016年は4月14日〜16日)でした。色とりどりの星形の“正月飾り”がホテルの玄関、廊下などを飾っています。アンコールがある都市の名前はシェムリアップ(Siem Reap)で、カンボジアの西部に位置します。カンボジア入国にはビザが必要です。


▲ホテルの玄関の正月飾り


▲南国の花

■アンコールワット

 翌朝、アンコールワットへ出かけました。

 遺跡巡りは、まず、入場券を求めなければなりません。1日券と3日券が各US$40。2日券はないので、3日券を購入しました。顔写真を撮られて、券の右下にプリントされます。誰もインチキはできません。


▲アンコールワット、西口の参道

 「ワット」は寺院という意味です。過去にはヒンドゥー教寺院でしたが、その後、仏教寺院になりました。家族、カップルそして観光客が着飾って初詣でに来ています。

 ガイド氏は「アンコールワットは正面が西口なので、午前中は逆光のため写真の写りが良くないし、人も多いから」と説明、私たちは東口から入りました。


▲アンコールワット、東側からの眺め

 南北1,300m、東西1,500m、幅200mの堀に囲まれ、参道、回廊、5基の尖塔で成り立つ、3層の巨大な石造建築です。12世紀後半、スーリヤヴァルマン2世がヒンドウー教の神ヴィシュヌへ捧げ、また王の墳墓として建立したそうです。

 上へ上へとのぼらなければなりません。足もとの石はかなりの大きさで、高さもあり、その大石を越えないと向こう側へ行けません。


▲7つの頭を持つナーガ(蛇神)。いたる所で見られる

 第一回廊には高さ5m、全長760mにわたり、8つの物語のレリーフが密に描かれています。「乳海攪拌(にゅうかいかくはん)」は全長50mに及び、ヒンドゥー教の天地創造の神話を描き、特に有名です。ほかに、「天国と地獄」などがあります。ガイド氏の説明を聞いていると、よくこれだけ修復したものと感心しました。


▲第一回廊は石の列柱で屋根が支えられ、壁面は一面レリーフで飾られている


▲レリーフ「天国と地獄」

 死後の世界を表した「天国と地獄」のレリーフです。王様が死後、神と一体化するために駆使したあらゆる手段が描かれているそうです。

▲女神「デヴァター」 ▲中心塔の拝殿へ上る階段。摩滅して通行禁止


 「デヴァター」と呼ばれる女性像(女神)がいたる所に彫られています。その肢体と装飾品に目を見張りました。

■アンコールトム

 翌朝、ホテルを6時半に出発して、城塞都市と呼ばれる「アンコールトム」へ行きました。縦横各約3kmの城壁で囲まれたアンコールの最大都市です。


▲南大門。左は神々、右に阿修羅の像。ナーガの頭は右の黒い部分

 ここには5つ門があります。まず巨大な四面菩薩像の修復状態が最も良い「南大門」を見物します。門への参道には、左に54体の神々と右には54体の阿修羅の像が七つの頭を持つナーガ(蛇神)を抱えています。神々は穏やかな顔をしていますが、阿修羅はそれぞれ個性的でした。


▲バイヨン寺院

 アンコールトムの中心にはバイヨン仏教寺院が建ち、「クメールの笑み」とも言われる微笑を浮かべた4面仏で知られるところです。54塔もあるそうです。

 建物全体はアンコールワットと比べると、足もとの石の一つ一つはもっともっと大きく、並び方も不揃いで、深い凹凸があり、ガイド氏について行くのは大変でした。


▲微笑を浮かべている4面仏

 王朝の絶頂期を統治したジャヤバルマン7世の王宮の跡は門と塀だけが残っていました。


▲象のテラスの中心部

 王が儀式や式典に使ったという、全長300m、高さ3mの「象のテラス」を見物しました。下の広場にグリーンのシャツを着たたくさんの人が掃除道具を持っています。
 「正月をここで祝った人々が残していったゴミを片付けているのですよ。掃除係はシャツがグリーン、治安に従事している人はブルー、そして、僕らガイドは黄色のシャツを着ています。分かりやすいでしょ」とのこと。


▲遺跡見物に欠かせない水

 見物中、トロントを出た前週との温度の差の激しさにまいりました。外に長くいると何もしたくなくなります。歩きやすい靴はもちろん、午前中でも38℃プラス湿度。帽子と水の瓶(びん)は必需品です。〈次号につづく〉

(2016年7月21日号)



 



 
(c)e-Nikka all rights reserved