相続法の基礎知識・オンタリオ州編(その22)
カナダに相続税はないけれど…


〈オンタリオ州弁護士・スミス希美(のぞみ)〉

 相続の話になると、誰もが気になるのは税金のこと。日本では、相続人が受け取った遺産に対して相続税を支払いますが、そもそもカナダには相続税というものがありません。ただし、「相続税がないとはなんて素晴らしい!」と手放しには喜べません。
 カナダの税制は日本と異なり、あなたの死後には相続税とは違う形で、カナダ政府から税金を徴収されることになります。今回は、死後に発生する税金のお話です。




インカムタックス(所得税)の支払い
 カナダでは、税法上、あなたが死亡すると、あなたが亡くなる直前に、所有していたすべての財産を処分したとみなされます(The Deemed Disposition Rule=みなし処分のルール)。

 すなわち、あなたが所有する投資や不動産などの財産は、亡くなる直前に公正な市場価値(時価)で売却したかのように扱われ、その譲渡益に対して、キャピタルゲイン(Capital Gain)が課税されます(損失についてはキャピタルロス)。  なお、通常、自宅として居住していた不動産については、自宅免除(Principal Residence Exemption)が適用されるため、キャピタルゲインの課税対象にはなりません。

 ちなみに、夫婦の一方が亡くなり、他方が財産を相続した場合は、このみなし処分のルールが適用されませんが、残された配偶者が死亡した時点で、みなし処分による税金を支払うことになります。




被相続人の確定申告
 カナダにお住まいの皆さんが、毎年インカムタックスの申告をするのと同様に、死亡した後にも、被相続人の確定申告をする必要があります。死亡した年のインカムタックスのリターンは、Terminal Return(T1 Final)と呼ばれ、遺言執行人や、無遺言の場合の遺産管理人などの、被相続人の遺産の法的代表者が被相続人の確定申告を行います。

 被相続人のインカムタックスは、死後に残された遺産(Estate)から支払われることになります。したがって、日本のように相続人が受け取った遺産から税金を支払う相続税という仕組みはありません。

 被相続人の確定申告の期限は、通常の個人の申告期限と異なるため、注意が必要です。詳しくは、Canada Revenue Agency(CRA)のウェブサイトをご覧ください。
http://www.cra-arc.gc.ca/tx/ndvdls/lf-vnts/dth/fnl/menu-eng.html

 また、被相続人の遺産が死亡日から1年を超えて引き続き管理されている場合、遺産金からの利子などの収入にも税金がかかり、遺産が相続人への遺産分配が完了するまで、毎年信託用のタックスリターン(T3 Return)を申告する必要があります。




確定申告は遺言執行人の大事な仕事
 被相続人のインカムタックスの申告、そして支払いは、遺言執行人の仕事の中でも、最も重要な仕事だとされています。基本的に、インカムタックスの支払いが完了するまで、相続人への遺産分配がなされません。

 仮に、インカムタックスの支払いを完了せずに、相続人に遺産を分配してしまい、後に CRA から税金の請求書を受け取ったとしましょう。相続人に遺産の一部を返すことを要求し、税金の支払いにあてることは不可能ではないですが、渡してしまったお金を回収するのは、至難の業です。その結果、未払い分について、遺言執行人が自己負担する羽目になります。




 このような事態を避けるため、遺言執行人は、CRA から被相続人のインカムタックスの支払いがすべて完了したことを証明する、「清算証明書」(Clearance Certificate)という証明書を申請し、発行してもらう必要があります。この証明書を入手したら、相続人への遺産分配ができるようになります。
 上記のようなインカムタックスの支払いがすべて完了し、相続人への遺産分配にいたるまで、平均的に1年以上かかることがほとんどです。

 また、被相続人の確定申告は、専門の会計士にお願いするようにしましょう。ご自分で、個人のインカムタックスリターンを用意される方も多いと思いますが、被相続人の死後に適用される税的ルールは複雑であるため、後々のトラブルを避けるためにも、専門の会計士に相談しましょう。

各州のプロベイト税
 本欄によく登場する「プロベイト」(Probate)( 詳しくは、本欄第7回を参照。http://www.e-nikka.ca/Contents/150416/topics_04.php )。

 遺産の処分には、裁判所での遺言書の確認・登録を行うプロベイトと呼ばれる法的手続きが必要になることがあります。プロベイトの申請の際には、遺言執行人が遺言書原本を裁判所に提出するとともに、プロベイト税の納入を求められます。

 プロベイト税の税率は各州異なりますが、現在のオンタリオ州では、死亡時の遺産の価値に対して、約1.5%がプロベイト税という州税として課税されます。なお、遺言書を残さずに亡くなり、無遺言による遺産管理人申請が必要になった場合にも、被相続人が残した遺産の価値に対して、同様のプロベイト税が課税されます。

 また、オンタリオ州では、2015年1月1日より、遺言執行人が遺言書のプロベイトを裁判所に申請した場合、その際に提出した遺産額の詳細を「遺産情報申告書」(Estate Information Return)としてオンタリオ州財務省(Ministry of Finance)に提出することが義務付けられるようになりました。

 このように、死後に発生する税金は、私たちが生きている間に納める税金とは、勝手が違います。死後に発生する税金の申告は、必ず専門家の助言を得て行ってください。




【おことわり】
このコラムを通して提供した情報は、一般的及び教育的な目的として提供された情報であり、著者及びダーモディ法律事務所による読者個人への法的意見又は見解を示すものではありません。特定の事実関係につき法的助言を含む専門的助言を必要とする方は、ご自身の弁護士・会計士等の専門家へ直接ご相談ください。また、カナダの遺産相続に関する法律は州によって異なりますので、当コラムで提供する情報はオンタリオ州の法律に限られていることをご了承ください。

【著者略歴】

▲スミス希美弁護士
スミス希美(のぞみ):福岡県出身。中央大学法学部を卒業後、トロント大学ロースクールに留学し、ジュリス・ドクター及び法学修士号を取得。その後、2010年にオンタリオ州の弁護士資格を得る。現在、ハミルトン市のDermody法律事務所で、遺産相続・信託法を専門に活躍中。遺言書、委任状、贈与などのエステートプラニングや遺産の管理・処分に関する相談などを取り扱う。
著者への連絡は、下記まで。
〈連絡先〉電話 : 905-383-3331(内線)226
Email : zoe@dermody.ca
Website : www.dermody.ca


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(2016年7月21日号)



 



 
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