中米コスタリカ
クロコダイルに出会った——!! 


〈 オンタリオ州ロンドン市 ウィルソン夏子 〉

 サン・ウィング社のチャーター機は、トロントからわずか5時間でコスタリカに着いた。コスタリカは中央アメリカの太平洋岸にある小国で、赤道から北緯10度に位置する熱帯の国。平均気温は30度という。コスタリカは「豊かな海岸」という意味で名付けられた。太陽を求めて、北米からは冬に行くのが一般的だが、料金の都合でこの6月に訪れた。雨期がすでに始まっていた。

 飛行機がコスタリカの上空に入ると、山ばかりだ。リベリア(Liberia)の飛行場はコスタリカの北西部、グアナカステ州にある。周辺は森また森だった。


▲飛行機から見たコスタリカの山並み

 そんな森の中にホテルがあるらしい。空港からバスでホテルに向かうが、道の両側は深い森で、田舎風の家がぽつぽつと立っている程度。コンクリートの建物はひとつもない。「リュー・パレス」(Riu Palace)という名のホテルに着いて、まず、海で泳ぐ。

「わあ、あったか〜い」
 海水はお風呂の温度だ。これが熱帯の海なのだ。山に囲まれて入り江になっているので、波もなかった。泳ぎやすい。塩加減もちょうどいい。頭を濡らさないで、平泳ぎができる。海岸の砂は火山灰のせいで、黒っぽかったが、細かくさらさらしている。これで、この国が観光業で成り立つ理由が分かった。海岸が魅力的なのである。


▲ホテルの前にある海岸

猿を見た

 翌朝、目が覚めると、5時半だった。コスタリカとカナダの時差は2時間。カナダ時間では7時半だから、いつものように起きたことになる。すぐにホテルの近くにいるというお猿を見に行くことにする。海岸を左の方向に歩くと、「モンキー・トレイル」のサインが見えた。海岸を離れて、左に折れて、ちょっとした森の中に入る。


▲ノドジロ・オマキザル。やっと写真を撮ることができた

 更に森を進んで行くと、正面の山から猿が下りて、こちらに走ってくる。 「何か、もらえるかもよぉー」と猿の誰かが呼んだのか、猿たちはどんどん山から出てきて、道を横切り、反対側の山に入っていく。ある猿は枝にぶら下がるが、ある猿は森の中に消えて行く。顔は白くて、体は黒い。かわいい。

 後で調べてみると、この種の猿は、このグアナカステ州に生息する「ノドジロ・オマキザル」という名前がついていた。オマキとは「尾巻き」のことのようだ。全部で2、30匹は出てきたかもしれない。彼らは、一カ所にじっとすることはない。写真を撮るのは簡単ではなかった。

 雨期は、冗談ではなかった
午前中、海岸の椅子で、本を読んでいると、ぽつり、ぽつりと雨が降ってきた。
「あら、雨かな」
と思っているうちに、雨脚(あまあし)が激しくなり、そのうちに、土砂降りになった。

 人々は慌ててタオルなどを抱えて、ホテルの建物の方に走っていく。私も走った。一番近くのバーは人でいっぱいになった。そこで長い間、雨を眺めていた。まっすぐに白いシーツのように降る雨を見ていて、「どこかでこんな風景に出会ったなあ」と思った。

 思い出してみると、それはナイアガラの滝の後ろに立った時、水がシーツのように落ちてくる風景だった。すごい量の水が、まっすぐに落ちてくるのだった。そのうちに、通路には洪水ができた。しかし20分ほどすると、土砂降りは小雨に変わり、ついに止んだ。

 日光が出て、海で泳いだ。大雨の後だったのに、海は暖かかった。しばらくすると、また、ぽつりぽつりから、じゃあじゃあと、殴りつけるように降ってきた。この時は、太陽が出ているのに、雨なのだ。天気なのに雨。こうなれば、雨に濡れても、海で濡れても同じだった。思い切って、雨の中の海岸を歩いてみた。


▲小雨の中でもプールにいる人、椅子に座っている人

 これが熱帯の雨期というものらしい。一週間いた間、毎日、毎日、雨が降った。しかし、雨の後、からっと晴れる時間があった。晴れれば、通路の水たまりも、すぐに消えた。雨の後の草木は、生き生きしている。人が集まって、空を見ている。

「何か、いるのかしら?」
「虹だよ」
見れば、晴れ上がった時には、虹が出た。
「あっ、あそこにも」
虹は大空に二つもできた。

ガイドさん

 海岸で、夫は1日(日帰り)旅行のバスツアーを売っている人からツアーを買った。パロ・ベルデ(Palo Verde)という国立公園に行くためだった。ホテルに属する会社ではないから、幾分は安いということもある。しかし何よりも、地元の人に会えるのが楽しい。ヒュンダイのミニバンでやって来たガイドさんは、マリオという名の、5、60歳の人だった。この人のスペイン語が聞きやすいのがありがたい。

 「今日のニュースは、モハメッド・アリが亡くなったことです」と、マリオは始めた。私たちは、旅ではネットを見なかったので、彼の死は知らなかった。マリオは、ネットで知ったに違いないのだ。このボクサーの名は、世界中に知られていたことを確認した。

 とにかく彼は、おしゃべりだった。彼の長い話を短くすれば、「僕は離婚している」と言う。話しの前後からすると、彼はお酒のみで奥さんに捨てられたんだろうかと察してしまう。そして、奥さんの方は、すでに新家庭を持っているらしいのだ。が、「今日の午後は、奥さんの方で車が必要なので、行ってやらなくちゃ」と言う。
 前夫として、前妻の家族に手を貸しているとも受け取られた。彼の離婚は、深刻味がなく、何か喜劇的とでもいう雰囲気があった。


▲ガイドのマリオ。後方に見えるのは、カナダからの移住者たちのコンドミニアムがある「ココ海岸」

 マリオが住んでいるというコミュニダッド(Communidad)という町も通った。
「この町で生まれ、大人になってから、医療機関のおかかえ運転手になった。その後、学校へ行き、資格を得て教師になった。1年から6年までの子供たちを一つの教室で、同時に教えていた」という。なるほど。そういうわけで、彼のスペイン語が分かりやすいのだ。彼はお国自慢もする。

「コスタリカでは、農作物は輸入なしで、ほとんど自給できるんだ。マンゴ、パパイヤ、パイナップル、メロン、スイカ、とうもろこし、ほうれん草など、火山灰の肥えた土地で収穫できる」
 そして、「ないのは、石油だけだよ」と言った。

 途中、ふさふさと葉をつけたとうもろこしの畑を見、羊たちが車道を歩いているのを見送った。そうするうちにパロ・ベルデという国立公園に着いた。公園といっても、山である。ここで、ボートに乗る。テンピスケ川(Rio Tempisque)を小さなボートで進んでいく。ここは、泥の湿地帯でもある。


▲ボートに乗る

 ボートは静かに進んでいく。エンジンの音をさせていない。波もたてない。動物たちを驚かせない配慮があるのだと知る。乾期には平たい土地であるらしいが、今は雨期なので、川にはマングローブが見える。川は深そうである。

「ああ、あそこにクロコダイル(わに)がいる!」と案内青年がいう。
「あ、ほんと。ほら、あそこにいるわ!」とボートの7、8人の乗客も声をあげる。が、私には見えない。
「どこ?」と聞いても、「あそこ」という答えしかない。

 船長さんが、ほとんど川べりに、ボートで乗り上げる。
「ああ、あれ?」
 それは、岸と全く同じで、泥の色をしていたので、見極めがたい。流れ木の一部のようにも見える。1メートルはあるかもしれないが、全く動かない。
「あれは、赤ん坊だ」と青年は言う。
 なぜか、彫刻にも似ていた。これをクロコダイルというのか。


▲岸辺から川に入るクロコダイル

 ボートが更にクロコダイルに近づくと、すべるように這(は)って、方向を変え、水の中に消えた。ボートは進み続けた。

「あそこにもいるよ」「ここにもいるよ」という具合で、ボートから、私は5、6頭のクロコダイルを見た。好きにはなれなかったが、そのボートに乗り、何頭も見たことで、この動物を怖がらなくなっていた。
 私にとっては、かなりの進歩であった。堅い鎧(よろい)を着けた不気味な動物だが、写真を見れば、その目は、一見、優しそうに見える。
「俺たちがどうやって生きてるか、ちゃんと見て行きなよ」と語りかけているようであった。

 今、この原稿を書いている2016年6月14日、ニュースがあった。それは、ディズニーランドがあるフロリダ州のオーランドで起こった。リゾートホテル近くの人工湖で、川べりで足を水につけていた2歳になる男の子が、突然、アリゲーター(わにの一種)に襲われ行方不明になったというショッキングなニュースだった。

 野生動物は、時には突然、衝動的な行動に出て、人間を襲う。野生動物は野生的に生きるのが一番だが、人は彼らとうまくバランスをとりながら、注意して対応していかなければならないのだと思う。

 ボートツアーで山にいる猿も見た。猿は近づいてきたボートにも乗り込んでくる。自然の中で暮らしている猿は、ヒステリー症状もなく、のんびりと観光客に挨拶にくる。おっとりしている。森の中で安泰に暮らしているからだろう。
 本来は食べ物を与えてはいけないが、ボートの案内青年がニンジンをやると、猿はボートに乗ってきて客の背や頭に乗った。


▲ボートに乗ってきた猿


▲シラサギも飛んでいる

 ボートを降りて、この公園をほんの5、6分歩いてみる。驚いたのは、鳥の声だった。フクロウの「フー・フー」という静かな低音の上に「ヒュー!」という声がする。「ギー」と応対する鳥がいる。「カタカタカタ」と素早いスピードで静かな通奏低音を破る鳥がいた。

 姿のきれいな鳥かもしれないし、そうでないかもしれない。何十種類の「声」だけが頭上を横切っていく。どんな鳥なのだろう、と方々に目を走らせるが、鳥の姿は全く見えなかった。 

 ところで、コスタリカには軍隊というものがない。1949年憲法で、軍隊は持たないことが決められているからだ。内戦が続いた隣国のニカラグアに比べれば、コスタリカは50年も平和を保っている。

「もしも、と仮定して、敵が来たら、コスタリカはどうやって防御するのかしら?」と、コスタリカ出身の人と話してみた。
「コスタリカから何を奪いたいか、その敵に、こちらが聞きたいくらいだよ」と、その人は笑った。

 コスタリカの人は穏やか。国も穏やか。そして、人の生活水準は他の隣国よりも高いようだ。

 ホテルのビュッフェの寿司もよくできていた。とびこの代わりに赤い唐辛子を散りばめた巻き寿司はユニークで、おいしかった。


▲「マリンチェ」という木の花

地に落ちる
花びらもまた
艶やかに
染められており
熱帯の陽(ひ)に

〈次回は、ニカラグアです〉

(2016年8月4日号)



 



 
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