相続法の基礎知識・オンタリオ州編(その23)
エステートプランを見直す時期とポイント


〈オンタリオ州弁護士・スミス希美(のぞみ)〉

 ある銀行の調査によると、約60%の50歳以上のカナダ人は、自分の現状に即したエステートプランを持っていないそうです。読者の皆さんの中にも、遺言書は持っているけれど、気づけば、あれから数十年たっていたという方もいらっしゃるかもしれません。

 遺言書は、新しく作成しない限り、亡くなる前の一番最後に作ったもののみが有効となります。したがって、たとえ半世紀前に遺言書を作って、そのまま更新せずに亡くなったとしても、その遺言書は最後の遺言書として効力を生ずるのです。

 今回は、あなたの「万が一」に備えるためのエステートプラン(遺言書、財産・身体委任状、生命保険、レジスタードプランなどを含む総合的な計画)の見直しについてお話します。




まずエステートプランを見直してみる
 「遺言書や委任状は何年ごとに更新すべきですか?」という質問をよく受けます。更新する時期として特に決まった時期はありませんが、私はまず、2〜3年ごとに遺言書や委任状の内容を見直すことをおすすめしています。この「見直す」(Review)という作業ですが、以下のことを中心に内容を確認するとよいでしょう。

【1】遺言執行人や委任状代理人は健在か
 遺言書で指名されている遺言執行人(Executor)や委任状代理人(Attorney for Property and Personal Care)が死亡していた場合、いざこれらの文書が使われる場面になって、ご自分の遺産の手続きや財産管理、身体の世話を担う人が不在となります。また、これらの文書で指名されている人物が体調不良の場合、いざというときになり、遺言執行人および委任状代理人の職を辞退する可能性が高まります。




【2】相続人は健在か
 相続人(Beneficiary)に指名された人がすでに亡くなっていたり、遺贈先の慈善団体(チャリティー)などが存続していない場合、意図していた相続人への相続分や遺贈分の行方が問題となります。




【3】遺言書や委任状の内容が現在の自分の希望を反映しているか
 遺言書の内容は、今のご自分の現在の財産状況や心境、家族関係を反映し、自分の希望に即したものになっているか確認してみましょう。

 たとえば、遺言書を作成した後に、別居した場合、別居中の配偶者を相続人にしたくないと思うのは自然でしょう。また、別居中で疎遠(そえん)になった配偶者が、委任状で自分の財産管理や、医療行為を決定することを希望しない場合もあるでしょう。

 なお、遺言書に限らず、生命保険、RRSP や RRIF などのレジスタードプランの受取人指定(Beneficiary Designation)についても、自分の希望が反映されているかを確かめる必要があります。

 たとえば、指定した生命保険の受取人が、離婚相手になったまま亡くなったとしても、離婚という行為自体が受取人指名を無効にするということはありません。そのため、この点について、裁判所は一貫して、「契約内容の更新は本人の責任である」という立場を取るため、受取人指名について争いが生じても、基本的に法的保護はありません。




エステートプランの更新時期の目安
 上記の見直し作業の中で重要なのは、現在準備しているエステートプランが、自分の「現況」に即したものであるか、という点です。以下は、エステートプランの更新すべき時期の目安となる、人生の出来事の例です。

(1) 新しく家族が増えた(子や孫の誕生、養子をもらうなど)




(2) 子供が成人した(もしくは、お金の管理を任せられる年齢になったなど)
(3) 万が一のために、未成年の子供の後見人を指名しておきたい
(4) 結婚・再婚した




(5) 事実婚関係(コモンロー)にあるパートナーがいる
(6) 別居を開始した
(7) 離婚した
(8) 財産内容が大きく変わった(資産・負債の変化)
(9) 家族間での大きなお金の貸し借りがあった




(10)大きな額の相続や贈与を受けた
(11)州外または国外に財産を取得した
(12)家族の死亡、病気、障害など
(13)事業の開始や閉業

 なお、通常、弁護士が書面を準備する場合、今後頻繁(ひんぱん)に更新しなくても良いようにさまざまな点を考慮します。
 例えば、遺言執行人や委任状代理人の死亡・病気に備えて、第二・第三希望の人物を指名したり、相続人が遺言者よりも先に他界した場合の遺産分配について指定するなど、いわゆる「プランB」を設けています。

 また、財産内容は亡くなるまでに変化するため、できるだけ財産内容を指定しないようにしたり、これから家族が増える若いご夫婦には、あえてお子さんの名前を特定しないようにしたりします(孫の場合も同様)。




 しかし、結婚・別居・離婚などの夫婦関係に変化が生じた場合、いわゆる「プランB」では対応できない部分もありますので、エステートプラン全体を見直すことが大切です。
(詳しくは、本欄第12回〜「多様化する家族の形と相続」を参照)
http://www.e-nikka.ca/Contents/150917/topics_02.php

【おことわり】
このコラムを通して提供した情報は、一般的及び教育的な目的として提供された情報であり、著者及びパレット・ヴァロ法律事務所による読者個人への法的意見又は見解を示すものではありません。特定の事実関係につき法的助言を含む専門的助言を必要とする方は、ご自身の弁護士・会計士等の専門家へ直接ご相談ください。また、カナダの遺産相続に関する法律は州によって異なりますので、当コラムで提供する情報はオンタリオ州の法律に限られていることをご了承ください。

【著者略歴】

スミス希美(のぞみ):福岡県出身。中央大学法学部を卒業後、トロント大学ロースクールに留学し、ジュリス・ドクター及び法学修士号を取得。その後、2010年にオンタリオ州の弁護士資格を得る。現在、ミシサガ市の Pallett Valo LLP 法律事務所で、遺産相続・信託法を専門に活躍中。遺言書、委任状などのエステートプラニングや遺産相続の手続きに関する相談などを取り扱う。
著者への連絡は、下記まで。
電話:905-273-3022 (内線: 258)
または、 Email : zsmith@pallettvalo.com
(注:2016年8月中旬より、著者の所属事務所および連絡先が変わりました)


【編集部より】「知っておきたい相続法の基礎知識」シリーズ、「第1回 なぜ遺言書が必要か?」から「 第22回 カナダに相続税はないけれど・・・」までの記事は、アーカイブの「相続法の基礎知識」をご覧ください。トップページ「今週のトピックス・目次」の下の「過去のトピックスはアーカイブをご覧ください」をクリックすると見られます。

(2016年8月18日号)



 



 
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