重力波


〈 トロント 三浦信義(ノビー) 〉

 今年2月、重力波が初めて観測された。重力波は膨大な質量の物体が宇宙空間を揺れ動く時に起こる重力のさざ波である。

 重力波が本当に観測されたことは正直に意外だった。重力波は微弱で、長い間の努力も成果をあげていなかった。地球上の4キロやそこらの長さのレーザー光線設備では観測は無理で、宇宙空間に衛星を並べた何万キロの長さのレーザー光線設備の計画が話されていた。

 今回検出された重力波のグラフを見た。2つのブラック・ホールが互いに回りあい近づいて行く様子がはっきり分かった。2つの独立した設備が独自に同じ重力波を探知している。これは間違いない。

 重力波はなぜそんなに微弱なのか。
 まず、重力とは非常に弱いもので、膨大な質量が身近にあってやっと感じられる。人間は地球からの引力を感じるが、隣に立っている人からの引力は感じない。地球の約33万倍の質量の太陽は遠すぎて人間はその引力を感じない。


▲Black Hole

 さらに、2つのブラック・ホールのゆらぎが作り出した波紋の輪は、膨らむ風船の字が薄くなっていくように弱くなって行く。輪の円周の長さは発信源からの半径をRとすれば 2πR(π パイは円周率)。今回の発信源が13億光年先で、1光年は約9.5兆キロである。Rは膨大だ。広がった輪の地球に届く部分がいかに微小な部分であるか分かろうというものだ。

 1980年代の宇宙背景放射線(Cosmic Background Radiation=CBR)の検出は、観測精度の向上でその内容まで理解できるようになり、宇宙の起源、その他の宇宙現象の理解が急激に深まった。

 3年前のヒッグス粒子の存在の確認は、素粒子学の理解の正しさを証明し、その後、粒子加速器の性能向上で、さらに未知の粒子の存在がうわさされている。

 そして今回の重力波。この探知能力が向上すればCBR同様、その内容まで精密に理解できるようになり、宇宙の起源の理解の強力な武器となる。

 CBRの時も、ヒッグス粒子の時も、そして今回の重力波も、昔は理論はともかく、それを実験・観測では確認できないだろうと言われたものだ。理論が次々と実際に確認されて行く。我々は何と幸せな時代に生まれたのだろうと思う。

 この広い宇宙に高度文明が存在することは間違いないけれど、ここまで宇宙を探知し理解している文明はひょっとしたら人類以外にそんなにいないのではないかといつも思う。

 その人類を思う時、戦争があり、貧困があり、トランプ米大統領候補がいる。こんな不完全な生物の集合が、宇宙の理解という直接目に見える利益や効果のないことに努力を続けていること。不思議に思うけれど、それが本当の人類の強さなのかも知れないとも思う。

(2016年8月25日号)

 
 


 
 
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