相続法の基礎知識(オンタリオ州編)(その24)
あなたが残した「物」も遺産の一部です


〈 オンタリオ州弁護士・スミス希美(のぞみ)〉

 「遺産相続」と聞くと、土地やお金の相続を思い浮かべがちですが、故人が残したさまざまな「物」、すなわち私財品(Personal Effects)も遺産を構成します。残された私財品をどうするか、誰がもらうかというのが、不動産や現金の分配よりも意外にもめやすいのです。

 私財品という言葉に、宝石や美術品、家具など金銭的価値(Monetary Value)のある高級私財品を考える方も多いと思いますが、それだけではなく、感情的な価値(Sentimental Value)のあるもの、例えば、亡くなった母親の残した手書きのレシピ集、家系図、古い家族写真など思い出の品も含みます。

 このような「ちょっとした思い出の品」が、紛争の種になることもあります。私自身、実際に、母親の数十年分の日記帳を誰がもらうかをめぐって相続人の間で合意に達せず、お互いに弁護士をつけ、裁判寸前にまで発展したケースを見たこともあります。


 このような例は極端ではありますが、自分にとって思い入れのある大切なものや、自分がそれほどではなくても、ご家族が特別な感情的価値を持っているものなどがあれば、そのような私財品の行方が気になる場合は、エステートプラニングに組み入れる必要があるかもしれません。ここでいくつかその方法をご紹介します。  

遺言書の中で贈り物として明記する(Specific Gifts)

 もし、「これはこの人にもらってほしい」という願いがある物があれば、遺言書の中で遺贈品として明記することが一番効果的です。「私のコインコレクションを孫のAへ遺(のこ)す」というように、遺言書に明記することによって、遺贈品を指定された相続人へ届けることは、遺言執行人の法的義務となり、確実に届けたい場合は、遺言書の中で遺すことが理想的です。



覚書を作成する(Memorandum)
 なんとなくこれは誰に遺(のこ)したいという希望はあるけれども、気持ちが固まっていない、いつかそのことをはっきりしておきたいという場合は、遺言書の中ではなく、別紙で覚書(Memorandum)と呼ばれる私財品のリストを作成し、誰に何を遺すことの希望を遺言執行人に伝える指示書を作るとよいでしょう。

 ただ、このようなリストは、遺言書とは異なり、法的拘束力がなく、そのリストに指定された人物が指定された物を受け取らなくても、救済の手はありません。いつかこのようなリストを作りたいと思っている人には、遺言書の中で、「私が今後、私財品についての覚書を作成した場合は、遺言執行人は私の希望に従ってほしい」という旨を入れることもあります。



カナダ式?ラベル付けをする

 リスト作りは面倒だけど、でもこれだけは・・・、という思い入れの品がある人には、ラベル付けという方法もあります。封筒に遺す相手の名前を書いて遺したい指輪を入れておく、大切な絵画の裏に遺したい人の名前を明記したシールを張る、などはカナダでは古典的な方法のようです。ちなみに、この方法も法的拘束力はありませんが、家族が形見分けのときの指針になるでしょう。


これも立派な遺産です
(1)自動車

 オンタリオ州では、自動車の所有者の死亡後、残された家族に名義を変更する場合、遺言書の提示が求められることは、意外に知られていないかもしれません。もし、遺言書がない場合は、法定相続人を確認する手紙を弁護士に書いてもらうように、サービスオンタリオのカウンターで言われることになります。

 遺言書の中では、「私のこの車を誰に遺す」という指定をする必要は特にありませんが、きちんとした遺言書があることで、自動車の名義変更が比較的スムーズにできるでしょう。


(2)ペット
 本欄第19回(http://www.e-nikka.ca/Contents/160421/topics_02.php)でもお話しましたが、意外に忘れがちな「遺産」のひとつが、ペットです。ペットは生き物ですが、法的には動産とみなされます。そこで、ご自分の死後のペットの世話が気がかりな方は、遺言書の中で、頼れる人にペットをギフトとして譲り、里親となってもらうなどの対策が必要でしょう。



(3)デジタル財産
 最近、新しい相続の問題として取り上げられることが多いのが、デジタル財産(Digital Assets)と呼ばれるものです。E-mailやデジタル画像だけではなく、フェイスブックやツイッターなどの SNS サイトのアカウントなども含みます。また、スマートフォン、iPad やタブレットなどもデジタル財産のひとつでしょう。

 今年初めに、ビクトリア在住の女性が、亡くなった夫の iPad のパスワードが分からないため、妻がアップル社に再三アカウント情報の公開を要求しました。遺言書のコピーを送ってもアップル社は満足せず、裁判所の命令なしにはそのような情報公開はしないという対応が話題になりました。
 遺言書の中に iPad のパスワードを入れ込む必要はないですが、自分が持つデジタル財産の情報を財産情報として整理しておくことは、今後ますます重要になるでしょう。


 このように、エステートプラニングを通して、自分の大切な「物」たちを見直すきっかけになるかもしれません。

【おとわり】
このコラムを通して提供した情報は、一般的及び教育的な目的として提供された情報であり、著者及びパレット・ヴァロ法律事務所による読者個人への法的意見又は見解を示すものではありません。特定の事実関係につき法的助言を含む専門的助言を必要とする方は、ご自身の弁護士・会計士等の専門家へ直接ご相談ください。また、カナダの遺産相続に関する法律は州によって異なりますので、当コラムで提供する情報はオンタリオ州の法律に限られていることをご了承ください。


▲スミス希美弁護士
【著者略歴】
スミス希美(のぞみ):福岡県出身。中央大学法学部を卒業後、トロント大学ロースクールに留学し、ジュリス・ドクター及び法学修士号を取得。その後、2010年にオンタリオ州の弁護士資格を得る。現在、ミシサガ市の Pallett Valo LLP 法律事務所で、遺産相続・信託法を専門に活躍中。遺言書、委任状などのエステートプラニングや遺産相続の手続きに関する相談などを取り扱う。

著者への連絡は、下記まで。
電話:905-273-3022 (内線: 258)
または、 E-mail : zsmith@pallettvalo.com


【編集部より】「知っておきたい相続法の基礎知識」シリーズ、「第1回 なぜ遺言書が必要か?」から「 第23回 エステートプランを見直す時期とポイント」までの記事は、アーカイブの「相続法の基礎知識」をご覧ください。トップページ「今週のトピックス・目次」の下の「過去のトピックスはアーカイブをご覧ください」をクリックすると見られます。

(2016年9月15日号)



 
 


 
 
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