テネシー州グレートスモーキー山脈国立公園(後編)
山上遊園地、トレイル、昔の「密造酒」試飲・・・
カナダとは違う楽しみがいっぱい!


〈トロント 中村智子・記〉

 米テネシー州のグレートスモーキー山脈国立公園(Great Smoky Mountains National Park)で有名な場所は、標高の高い連なる山々はもちろんだが、ギャトリンバーグ(Gatlinburg)とピジョンフォージ(Pegion Forge)が観光地として有名である。


▲ギャトリンバーグのダウンタウン


▲ギャトリンバーグの目抜き通り

■ギャトリンバーグ(Gatlinburg)
 ギャトリンバーグはナイアガラ滝のクリフトンヒルを思い起こす雰囲気の町である。Parkway と呼ばれる一本の長い道路の両側に、博物館、水族館(トロントの水族館と同じ系列のものであった)、宿泊施設、レストラン、カフェ、バー、お土産屋、地元アーティストのクラフト店やカントリーの格好で写真を撮ることのできる写真館などが多数並び、多くの観光客や地元民でにぎわう町だ。


▲ギャトリンバーグの町と山上遊園地を結ぶロープウエー「Ober」


▲山上遊園地から更に上に行けるリフト(この写真は下り)

 それから、この町の目玉、山上遊園地と町とをつなぐ「Ober」と呼ばれるロープウエーも忘れてはならない。標高の高い山にある遊園地なので、Ober に乗っている時間は長くて景色も良かった。(帰りは夜景も見られた)

 この Ober、それまで急な斜面を下に見ながら上がっていたのが、途中で支える鉄柱を通過するたびに平坦になることが何度かあり、車体や体がふわっと浮いたような感覚になる。一回目は少しびっくりして、私も思わず「おーっ!」と声を出してしまったが、二回目以降は慣れてきて「またか」と思うようになっただけであった。

 ここは、やはり良くも悪くも、大げさな国アメリカ。とにかく盛り上がらないと気が済まないらしい。少なくとも30人は乗っていたであろう。みんながみんな、その平坦な場所が来るたびにフィーバーだ。

 カナダ人は、ロックコンサートであっても、クラシックコンサートのようにみんな静かに座っていることで有名だ(ロシア人移民の知り合いが、驚いた顔で話していた)。まあ、カナダで Ober のような状況があっても、きっと盛り上がるのは最初の一度だけだと思う。カナダとアメリカのこういった、しょうもない違いを見つけるのが、たまにアメリカに行く楽しみでもある。

 山上遊園地は、大人も子供も大いに楽しめるものであった。ウオータースライダー、ジェットコースター、スケート場、巨大迷路、さらに高い山へ行くリフトなど、山上遊園地だけでも丸一日過ごせるような規模である。

 このテネシー州唯一のスケート場が、カナダに住む者からすると、とんでもない所で、何とヘルメットを着けず、大人も子供もみんな一緒に滑っているではないか。リンクの監視役のような人もいたが、その人も足元がもたついて、全然上手に滑ることができていない。案の定、人や壁にぶつかり転んで、リンクで頭を打った人たちが何人もいた。

 それからリフトはシートベルトが一切なく、バーをお腹まで下ろすのみ。しかもきつく閉まるバーではない。子供は相当気を付けないと落ちる可能性があるが、子供だけが乗っていたリフトもあり、スケート場も含めてこの地域はどうも、安全対策が全然なっていないようである。カナダではちょっとありえない。(苦笑)

▲ギャトリンバーグ・トレイル(1) ▲ギャトリンバーグ・トレイル(2)


 ギャトリンバーグには、ハイキングのできるトレイルがいくつかあることでも有名だ。今回私が行ったのは、ギャトリンバーグ・トレイルで、グレートスモーキー山脈国立公園のビジターセンターから、ギャトリンバーグのダウンタウンへと通じるトレイルだ。

 ギャトリンバーグのダウンタウンでぶらっとするには、有料の駐車場に車を止めることになる。時間と体力のある人にはビジターセンターに車を止めて(無料)、ギャトリンバーグ・トレイルを歩き、ダウンタウンを観光することをお勧めする。休憩したり、川で遊んだりしながら歩いても、ダウンタウンまで片道約1時間とちょっと。トレイルと言っても、ほぼ平坦な道なので初心者や私のように運動不足の人にはうってつけである。

 ここは観光地なので、チェーンのレストランやファストフード店ばかりで辟易(へきえき)したが、これは結構いけるというお店を2軒見つけた。

 一軒目は Ober 乗り場から歩いてすぐの所にある「Big Daddy's Pizzeria」(http://bigdaddyspizzeria.net/)。

 窯(かま)焼きピザが目玉のお店で、北米ではおなじみの分厚い生地のピザなのだが、段ボールの味がするチェーン店の生地とは全く違い、小麦粉から丁寧に作られているのが分かるおいしいお店であった。
 よく、イタリアのピザ職人が披露している空中で生地を手で回しながら作るあの技を見ることもできた。テネシーのような田舎(しかも観光地)で、こんなにおいしいピザが食べられるとは思ってもみなかったので、棚からぼたもち気分であった。

 二軒目は Parkway の端にある人気のレストラン Cherokee Grill & Steakhouse(http://cherokeegrill.com/)。

 見事なまでのビッグアメリカンサイズの食事だが、肉料理はジューシーで柔らかく、内陸地なのに魚料理も新鮮で、サラダの種類も豊富であった。レモネードが甘くなく、きちんと手作りされていたのにも感動した。
 カナダに来た頃は、食事の量の多さにびっくりしたものだが、恐ろしいことに今ではそれが普通になり、その私がアメリカに行くとびっくりするということは、日本からアメリカに初めて旅行した人の驚きは相当なものであろう。


▲ピジョンフォージにある Wonderworks

■ピジョンフォージ(Pegion Forge)
 ピジョンフォージは(失礼な表現だが)できそこないのラスベガス・ミニチュアバージョンだけれども、決してがっかりはしない場所とでもいおうか。車が絶対に必要なかなり長い通路の両側に、年齢に合わせたさまざまなアトラクションがある。

 たとえば、家族連れにはもってこいの遊園地 Dollywood (http://www.dollywood.com/)や、遊び感覚で学べたり、いろいろなことが体験できる WonderWorks (http://www.wonderworksonline.com ) は人気のアトラクションである。

 ここでも、トランポリン、パターゴルフ、ゴーカートなど、屋内外を問わず、趣向を凝らしたさまざまなアトラクションがある。ピジョンフォージでは、残念ながらギャトリンバーグのようなレストランは見つけられなかったが、tex-mex のチェーン Salsarita's(http://salsaritas.com/)は、私のようなメキシカン好きにはうれしかった。

 カナダはさまざまな国や地域の、本場並みの料理が食べられることで有名だが、リーズナブルでおいしいメキシカン料理店が極端に少ないと、メキシコ人が文句を言っているくらいなので、Salsarita's がいつかカナダに進出してくれることを願うばかりである。

 ギャトリンバーグとピジョンフォージだけでも3〜4日過ごせるので、スモーキーマウンテンで一週間程度のんびりするのが、ここに来る人たちの夏の過ごし方のようである。  秋は紅葉シーズンでしばらくの間にぎわい、冬は短いスキーシーズンでほんの一時にぎわうそうだが、その以外の季節は閑古鳥が鳴くそうだ。そもそも、テネシー州はアメリカでも貧乏だといわれる州の一つで、主な産業は観光業と農業。観光業が盛んな割には、ギャトリンバーグもピジョンフォージもほとんど知られていない。もう少し頑張ってマーケティング活動を展開すれば、もっともっと観光地として栄え、州の貴重な財源になると思う。

 聞くところによると、テネシー州では医者や弁護士でも、他の州の人たちと比べると、収入はかなり低いそうだ。じゃあ、他の州で仕事を見つけてみたら?と思うのだが、みんな生まれ育った故郷が大好きならしく、貧乏でもいいからテネシーからは絶対に引っ越さない!というか、テネシー以外で生活するなど、人生の選択肢としてありえないという感覚の人が非常に多いことに驚いた。

 それから、銃を自宅に所持しているのが至って普通な人たちばかりで、強盗などが来たらすぐにでもぶっ放してやる!と息巻いている人も大勢いた。酒屋のドアには「店内には銃は持ち込まないで下さい」というサインが普通にかかっている。カナダとはまるで別世界だ。私たちが日常生活で銃を感じるのは、警察官を間近で見る時くらいである。それも年に数回あるかないか。

 ところで、今回の旅では、キャビンに泊まった。スモーキーマウンテン一帯には貸しコテージが散在しており、旅の目的や宿泊人数によって選べる。トロントの北郊ムスコカ地方と同じで、お城のような規模のコテージから、至って普通の一軒家風のコテージまでいろいろある。

 コテージに泊まる際に注意されたのが、ゴミの処理。とは言っても、オンタリオのように、缶ビンや紙や生ごみを分けて捨てるというのではない。カナダでもアメリカでも、田舎はゴミの分別ルールはあってないようなもので、ビール瓶と段ボール紙と生ごみを全部一緒に同じゴミ箱に捨てているのにはやはり抵抗があった。では、ゴミの何に注意しろと言われたかというと、熊である。


▲キャビンの外には熊対策がほどこされたゴミ箱


▲ちょっと見えにくいが、真ん中にある黒い二つの点が、熊3頭のうちの2頭である

 そうなのだ。スモーキーマウンテン一帯は熊が出没することで有名なのである。熊がゴミをあさるので、屋外に置かれたゴミ箱は金網箱の中に設置され、しかも鍵まで付いている始末だ。
 ということは、寝ている間に熊がコテージのすぐ外をうろつくこともあるのか? いや、まさか。と思っていたら、そのまさかであった。日中ではあったが、コテージ下の車の通る道を、熊の親子(親熊と子熊2頭の計3頭)がゆっくりと歩いているではないか。
 車ともすれ違っていたが、驚いたり威嚇したりする様子はなく、この辺りに出没する熊は、人や車に慣れているのかもしれない。それにしても、アンソニー・ホプキンス主演の映画「ザ・ワイルド」(英題= The Edge)みたいな悲劇がなくて良かった。


▲色とりどりの「ムーンシャイン」が並ぶギャトリンバーグの醸造所

 テネシーといえば、コーン・ウィスキーで「Moonshine」(ムーンシャイン)と呼ばれる密造酒が有名だ。密造酒と言っても、現在では実際には政府の許可を得て作られているお酒なのだが、1920年代にアメリカで禁酒法が発布されていた時代に、秘密裏にお酒が造られていたのが始まりだ。

 その醸造所がギャトリンバーグにある。いかにもカントリー調の建物で、密造されていたような雰囲気ではある。試飲してみたが、甘いお酒の好きな人には受けるだろう。度数がかなり高いので、試飲するだけで酔ってしまいそうだ(何種類も試飲させてくれる)。

 なぜ「ムーンシャイン」かというと、当時、月明かりの下で警察に見つからないようにこっそりとお酒を造り、密輸していたからだそうだ。なるほど。

 テネシーに行く前には周りのカナダ人たちから、テネシーなんて、ど田舎で、何もすることがない! トランプによろしく言っておいてくれ! などと散々馬鹿にされたが、実際に行ってみると、とても楽しくて、カナダではできない、良い体験ができたし、いろいろな発見があった。
 今年の夏は、いかにも北米ならではの旅行をすることができて大満足であった。

 帰りの道の国境で若いカナダ人オフィサーとの2分間の雑談は「テネシーに行ってきたの? 1週間、どうせキャビンに泊まって、ムーンシャインやビールを飲んでたんでしょ?」であった。トランクの荷物を調べられることはなかったが、カナダでは買えない酒類を買い込んだのが、ばれていたとは。(苦笑)

(2016年10月13日号)



 



 
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