【日加ヘルスケア協会】
音楽療法士、田口朝香さんが講演
歌や楽器を通じて心の癒やし、精神安定めざす


 「音楽療法」とか「ミュージック・セラピー」という言葉を、最近、よく耳にするようになってきた。
 ただ音楽を聴いているだけで癒やされることもあるし、モーツァルトのヒーリング・ミュージックなど、いろいろな話題も多いが、音楽のヒーリング・パワーはやはり素晴らしいと思う。

 今回、バンクーバーで日加ヘルスケア協会の「音楽療法」の講義が行われ、参加してみたが、「音楽療法」というカテゴリーは、ただ音楽を聴いてリラックスするというものではなく、考えていたことよりずーっと奥の深いセオリーを持つものであった。

  音楽療法士、田口朝香さんによる講演は、日加ヘルスケア協会主催により、9月22日、日系プレースの新さくら荘、岩崎ルームで行われた。


▲講師の田口朝香さん

 まず、音楽療法のルーツであるが、音楽家が第二次大戦後にトラウマで苦しむ軍人のために演奏を行い、音楽によって精神状態が徐々に回復していく現象を目の当たりにし、音楽の力に気付いたという。宗教においても讃美歌の癒やし、精神の安定と豊かさが保たれている。

 カナダ音楽療法協会の定義では、音楽療法とは、人間それぞれが持つ精神的、身体的、情動的、そして霊的な促進、維持、回復を促すために認定音楽療法士が音楽と音楽的要素(テンポ、リズム、メロディー)を巧みに使用すること。また音楽には非言語的、創造的、構造的、及び感情的資質がある。他の治療法の補助的役割もはたしている。
 つまり人生に関することやスピリチャルなことも含んでいる。薬で治せないものの補助として効果があるが、心が不安定だと治療が長引くことも多いという。

 対象者は幅広い。例えば、精神および身体障害のある人、つまりダウン症、自閉症、神経発達障害、うつ病、脳梗塞(こうそく)など、脳の病気による後遺症(マヒなど)や高齢者のアルツハイマー、痴ほう症などとなっている。

 音楽療法はエンターテイメントではなく、専門家が行うものであり、最初のステップとして、カウンセリングが行われるが、その内容は医学的見地、クライアントの歴史や人間像を把握し、苦痛を十分に理解することが大切である。

 クライアントが何を求めているのか、何が一番大切なのか、などについて家族や医療関係者とのミーティングを行い、長期ゴールか短期ゴールかの設定を行う。病気を理解するためには家族の情報も大切である。

 長期ゴールの例として、シニアホームなどで部屋に閉じこもってしまう人を外に連れだして、社会性を促すことも大事。短期ゴールでは、信頼性を築き、グループセッションへの参加や参加者同士の会話を行う。


▲講演会では「もみじ」など秋の歌を出席者全員で歌うひとときも・・・

 音楽をどのように用いていくかは、音楽の技術、個人セッション・グループセッション、受動的・能動的音楽療法などあるが、受動的音楽療法はクライアントと一緒に音楽に合わせて体を動かしたり、手をたたいたり、また、歌を歌ったり楽器を演奏する。能動的というのは聴覚を使うので、主に体を動かせない患者に対して行われる。

 本人の好き嫌いもあるから、曲とか楽器を選ぶのも反応を見ながら決めていく。器楽演奏、歌、ドラムのリズム、作曲したり、作詞などによって自分の思いを伝えたり自己表現を促すようになる。そういうことが出来ない場合には、字で書いてもらうなど工夫をしていく。
 好きな音楽や思い出のある音楽がより効果的であるし、歌ったり楽器を奏でることにより、ホルモンも活性化するようになるという。

 実践、効果を見ると、長期記憶への刺激、短期記憶や他の認知能力の向上、アルツハイマー、認知症予防など脳の活性化が行われる。自己表現・感情表現の促進、社会性の促進、癒やし効果(非言語的コミュニケーション)緊張緩和、不安の解消、心の慰安など見られる。4〜5週で効果が出てくるが、反応しない人もいるし、病気の程度にもよる。

 例として、脳梗塞で左脳をやられた患者に音楽に反応する正常な右脳を使うことにより、歌を歌えるようになったことや、アルツハイマー患者では、昔歌っていた曲を聴くことにより、思い出や感情がよみがえってきたなどの効果が表れているという。

 音楽療法とは時間をかけたカウンセリングで、各クライアントの真髄をとらえ、それぞれのニーズに基づいたゴールを設定し、音楽のあらゆる手法を使ってクライアントと一緒になってゴールを目指していく忍耐も必要である。

 音楽療法に関与する専門家の間では、その効果を体験でき、確信を持っているが、まだ一般からの理解は薄いような気がする。田口さんは「音楽療法という処方箋を医者が出せるようになるとよいのですが・・・」と語っていた。

【田口朝香さん略歴】
音楽療法士。小さい頃から音楽が好きで、音楽のパワーを感じながら育ち、音楽療法に出会ったことで非常に興味を持ち、2007年、高校卒業後、バンクーバーのキャピラノ大学で音楽療法を専攻し音楽療法学士号を修得。2015年に老後施設で1,000時間にも及ぶインターンシップを終え、音楽療法士となる。

www.nikkahealth.org

〈 リポート・妹尾 翠 〉

(2016年10月13日号)



 
 


 
 
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