【平出隆文学講演会】

トロント国際作家祭(IFOA)招待作家
平出隆氏、自作品の原点を語る


 詩人、作家、エッセイスト、ブックデザイナーとして幅広く活躍している平出隆(ひらいで・たかし)氏が、ハーバーフロントセンターで開催された今年のトロント国際作家祭(IFOA)に国際交流基金トロント日本文化センター(ジャパンファウンデーション)の支援により、招待作家として参加した。ハーバーフロントでの朗読や文学講演のあと、10月27日、国際交流基金トロント日本文化センターで、講演を行った。


▲講演をする平出隆氏

 平出氏は1950年、福岡県北九州市門司区に生まれ、一橋大学社会学部に入学。在学中に東京神田神保町の「美学校」に通う。在学中より詩作を「ユリイカ」に発表、マイナープレス「書紀書林」を設立し、詩誌や詩集を刊行。その後、1978年に河出書房新社に入社し、「文藝」編集部に所属する。1987年に河出書房新社を退社し、多摩美術大学美術学部芸術学科非常勤講師、さらに同助教授、教授となる。その間、ベルリンのベルリン自由大学客員教授として、ベルリンに1年間滞在する。


▲各国で翻訳された「猫の客」

▲日本語版の「猫の客」 ▲エッセー「ベースボールの詩学」


 著書は「平出隆詩集」、「胡桃の戦意のために」(詩集)、「ベースボールの詩学」(エッセイ)、「伊良子清白」(評伝)、「猫の客」(小説)ほか多数。

 また、ブックデザイナーとして装幀も手掛け、「伊良子清白」は、日本国内での複数の受賞のほか、ライプツィヒ・ブックフェアの「世界でもっとも美しい本」賞の候補にもなった。

 平出氏の小説の処女作で、訪ねてくる隣の猫との細やかなふれあいを描いた「猫の客」は、国際的評価を得、フランス、アメリカおよびイギリスでベストセラーとなり、現在、13カ国の言語に翻訳、出版されている。

 ジャパンファウンデーションでの講演は、前半は、「猫の客」がとった小説の形式、「私小説」について、詩人ならではの豊かで細やかな表現を駆使して語った。後半は本と郵便を一体化した「AIRPOST POETRY」の構成と、現在、開催中のジャパン・ファウンデーションのギャラリーでの展示について多くのスライド写真を示しながら丁寧に解説を行った。ここでは講演内容の要点だけを紹介する。

■「本」の生命とはなにか・・・日本の私小説の原点
 私小説とは、日本の近代が生んだ小説の形式で、日本人の原点につながるものだと思います。私小説は自分の実人生を素材としながら、身の周りの自然を描いています。その点、散文であっても詩に近いとも言えるでしょう。私の「猫の客」も小説でありながら詩とも言えます。私小説の形式には、日本の風土や自然、日本文学の伝統に直結したものがあります。日本の私小説は、日本人の宇宙観や時間意識とかかわってきた。万葉集という古代の詩の力も日記文学、随筆文学もまた、断片の力により、無名の生を刻印し、瞬間を記録しました。

 私には影響を与えてくれた2人の作家がいます。ひとりは、シュルレアリスト的なユニバーサルな文人、澁澤龍彦さん(1928~1987年)です。フランス文学者であり評論家です。三島由起夫と親交が深かった作家です。もうひとりは、「私」というものを極限まで探求した私小説家、川崎長太郎さん(1901~1985年)です。戦後における対照的な二人の文学者に出会えたことが、「猫の客」を書く上で大きな力となりました。

 私は、まだ翻訳のない川崎長太郎の小説と澁澤龍彦の小説が、欧米の読者に紹介される日が近いことを切に願っています。

■郵便アートとしての詩作
 エアポスト・ポエトリー(郵便アート)。郵便は、物質的な痕跡を帯びながら、国境をも越えます。本が一人の筆者の手元で物質化し、やがて一人の読者に届く。この直接的な過程のために、一人の読者は、単なる受け取り手ではなく、その「本」の最後の造本者でもありえます。

▲エアポスト・ポエトリー(郵便アート)1 ▲郵便アート2


▲郵便アート3 ▲郵便アート4 


 本の命の根源とは何かと考えたとき、出版界にではなく、現代美術の二人の巨匠から多くのヒントを得ました。ひとりは、ドイツの重要な画家でフォト・ペインティングで知られるゲルハルト・リヒターであり、もう一人は、ニューヨークに在住したコンセプチュアル・アーティスト、「日付絵画」で知られる画家、河原温です。

 画家や詩人が自分の作るものに生を与えるということは、書きながら描きながら、読者の存在の中で起こることにまで力を注ぐことです。今回の郵便アート展示のコンセプトは、郵便が作者と読者の間に、FOR ONE FROM ONE の関係を作りあげるという試みを現したものです。


▲平出隆ブック・デザイン展(ジャパンファウンデーションにて)

〈TAKASHI HIRAIDE----AIRPOST POETRY Book Design For One from One〉
■開催期間:10月4日(火)〜11月5日(土)
■開館時間 火・水・金 11:30〜16:30
      月・木 11:30〜18:30
      土 11:00〜16:00

〈リポート・いろもとのりこ/協力・ジャパンファウンデーション〉

(2016年11月3日号)
     



 



 
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