コンピューター時代の人為ミスの怖さ


〈トロント 三浦信義(ノビー)〉

   この春、世界の天文学者の大きな期待を背負って無事に地球軌道に乗った日本の高性能X線観測宇宙衛星「ひとみ」が1カ月で破壊してしまった。膨大な量のプログラムの中のたった1行の数値が「+」で入力されるところ「−」で入力されていた。そのため衛星の静止制御が逆に異常回転を起こし分解してしまった。高額な費用が無駄になり、長年の科学者・技術者の努力が一瞬にして消え、今後得られたであろう貴重な観測データが失われた。悔やんでも悔やみきれない損失である。

 しかしながら宇宙開発の歴史ではそういう人為ミスが驚くほど多い。
 月面着陸へ向かったアポロ13号の1970年の事故。アポロ計画は安全と信頼性を極限まで追求したプロジェクトだった。なのに小さなスイッチがひとつ間違って装着され、加熱して酸素タンクが爆発した。NASA(米航空宇宙局)は総力を挙げて3人の宇宙飛行士を無事に帰還させ「一番成功した失敗」と呼ばれたが・・・。




 単位のミスで1999年にNASAの125億円もの火星探索機が火星の軌道に乗らず火星を飛び越してしまった。探索機がヤード・ポンド単位で設計されていたのに制御力の数値がメートル法で入力されていた。何ということ。

 2007年にやはりNASAの火星探索機が火星に向かう途中で通信不能になった。地球からの指示が間違った部品に送られ、その結果、探索機は完全停止してしまった。

 ケアレスミスの典型が1988年のロシアの火星探索機。打ち上げ後、無事に火星に向けて飛行を始めた。安心した管制官が探索機を睡眠モードにするところ、何と完全停止のコマンドを送ってしまった。それでおしまい。
 どれもこれも悔やみきれない損失である。

 西暦が1999年から2000年になった時、Y2K といわれたコンピュータープログラムの問題があった。古いプログラムでは西暦1999年までの準備しかなく、2000年になると 00 になってしまうというものだった。大騒ぎで原子力発電所から空港管制までプログラムを点検・修正し、結果的にはことなきを得、皆で2000年を祝う花火を楽しんだっけ。

 これと似たことで1996年、欧州宇宙機構の500億円の巨大なアリアン・ロケットが打ち上げ直後、爆発した。傾き修正プログラムの中に、ある数値を超えた場合の指示がなかった。それまでその数値を超えたことがなく、何回も打ち上げに成功していた。この時、傾きがその数値を超えた。制御システムは何の指示も来なくなったため、打ち上げ回避の安全装置が作動、ロケットを爆破してしまった。これもプログラムの人為ミス。

 単位の混同は生死にかかわることにもなる。1983年の有名な「ギムリ」事故。ボーイングのB767はUSでは初めてヤード・ポンド単位でなくメートル法で設計された。カナダ航空はB767をモントリオール・エドモントン線に導入。モントリオール空港の地上作業員は指示された数値通り給油した。ただしポンド(Lb)で。Lb は Kg の約半分である。当然、半分飛んだマニトバ州上空で燃料が尽きた。この時の操縦士はグライダーの経験があり、エンジン・パワーなしで旋回、減速を敢行、放置されていたギムリという古い飛行場に何とか無事に着陸した。

 そういえばハドソン川にエンジン・パワーなしで不時着した US Air の機長 Sullinger 氏もグライダーの経験があった。飛行機に乗る時は機長がグライダーの経験があるかどうかチェックした方が良さそうだ。

 40年ほど前は、流体容量はカナダは英国制 Imperial Gallon、USは US Gallon を使っていた。Imperial Gallon は US Gallon より20%多い。ポンプや容器など買う時はカタログにはただ「Gallon」と書いてあるだけ。仕事上、Imperial か US か気を使った。

 当時、ガス・ステーションでガソリンを何 Gallon 以上入れると洗車が無料、というのがあった。隣のスタンドで US プレートの車がガソリンを入れていた。洗車無料の Gallon 数値に行く前に満タンになった。洗車は出来ない。彼は店員に「おれの車は満タンにすればもっと入るはず、洗車をさせないトリックをしただろう」と怒って金を払わずに行ってしまった。彼はカナダの Imperial Gallon は US Gallon より20%多いことを知らなかった。

 単位の混同は無意味な喧嘩(けんか)のもとにもなる。

(2016年11月24日号)

 
 


 
 
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