【インタビュー】
ジェット戦闘機の騒音に悩まされる沖縄県嘉手納町
當山宏町長に米軍基地問題を聞く


〈 取材・色本信夫 〉

 米軍基地の問題がいつもクローズアップされる沖縄。その沖縄県の嘉手納(かでな)は普天間(ふてんま)などと共に米軍基地の町として知られる。日本の地上面積の0.6%しかない沖縄県に在日米軍基地の74%がある現実。そこでは軍用機の騒音問題、墜落事故、米軍関係者による犯罪・トラブル、などが発生している。
 筆者は、10月27日、嘉手納町の町役場を訪れ、當山宏(とうやま・ひろし)町長にインタビュー、基地問題を中心にお話をうかがった。


▲嘉手納町の當山宏(とうやま・ひろし)町長

 嘉手納は那覇市から北へ約23キロの地点にある人口1万3,800人の町である。西は東シナ海に面し、北は読谷村(よみたんそん)、南東部は嘉手納飛行場内で、北谷町(ちゃたんちょう)、沖縄市と境を接している。町に所在する米軍基地には、嘉手納飛行場、嘉手納弾薬庫地区および陸軍貯油施設がある。

 當山町長は、「嘉手納町の土地に米軍の軍用地が82%を占めているという状態です。町民はわずかな広さの地域で暮らしているのですが、生活のすべてに米軍基地が影響しています」と語る。

 嘉手納飛行場の面積は19.86平方キロメートルで、東京国際(羽田)空港の約1.3倍、東京ドームの約425倍の広さ。飛行場は嘉手納町、沖縄市、北谷町の1市2町にまたがっている。


▲嘉手納飛行場について説明する當山町長

 この飛行場は戦時中の1944年、旧日本陸軍が開設したものだが、終戦前の1945年4月、沖縄本島に上陸した米軍が飛行場を占領、整備拡張を行った。その後、規模を拡大した結果、現在のような形となった。嘉手納は米軍の空軍と海軍、普天間は海兵隊が使用している。

 「日米安保の必要性は理解しているが、地元住民はあまりにも影響が大きいので、基地の存在は容認できない。将来は、全面的に返還してほしいという考えです」と當山氏。


▲嘉手納町の航空写真。飛行場の右側のタテに細長い部分が嘉手納の市街地。下の緑地帯には弾薬庫などがある。中央を流れる比謝川(ひじゃがわ)の北側(写真の右側)は読谷村(よみたんそん)

 當山氏によると、もともと嘉手納の町役場は米軍の基地内にあった。それを役場を造るからといって返してもらったのだそうだ。ごみ処理場、墓地は軍用地を使わせてもらっている。さらに町役場の隣りの駐車場も借りているのだそうだ。これら借地の賃貸料の負担は、町が90%、日本政府が10%となっている。本来、自分たちの土地だった所を借りて「使わせてもらっている」のだ。


▲嘉手納飛行場


▲飛行場のフェンス内に小さな農園も見える

 基地の周囲を囲むフェンスの内部にサトウキビや野菜を栽培する農耕地がある。
「農家の人は、畑に行くのに基地のゲートを通過しなくてはならない。しかも朝晩だけしか出入りができないと制限されています。この通過許可証は米軍の司令官からもらいます」

 将来的には基地の全面返還が望ましいのだが、今すぐそれは無理としても、一部でも返還してほしいというのが當山町長や町民の願いだ。あるいは民間と共用する案も浮上している。

「岩国基地や三沢基地では、すでに米軍と民間の共用が実施されています。しかし、わが町では難しい。仮に実現すれば、経済効果は高まるでしょう。町議会も同じスタンスです。町民は基地が一挙に返還されるのは不可能と考えているようです」

 最近行った基地に関する町民の世論調査では、「徐々に返還」が42%で最多。「すべて早急に返還」が20%、「返還不要」が11.5%、「分からない」が21%だった。「返還不要」と回答した人は地主がほとんど。地主は土地の賃貸料を得ているので、返還する必要はないということのようだ。


▲飛行訓練に飛び立つ前のF15ジェット戦闘機


▲激しいエンジン音が響く

 嘉手納町に米軍基地が存在することで、いちばん深刻な問題は「騒音」だという。次いでジェット機エンジンから放たれる「悪臭」が挙げられる。悪臭は、冬は北風のため、それほどひどくないが、夏の季節は南風が何とも言えない悪臭をもたらし、住民は不快な気分に陥るという。

 さて、最も深刻な騒音問題。この騒音、プロペラ機はそれほどひどくはないが、ジェット戦闘機はたいへんだという。離陸する際に発する「キーン」という耳をつんざくようなエンジンの爆音で、住民は地響きの恐怖感におびえ、耳鳴りなど身体の不調や不眠などを訴える被害が出ている。

 取材のつい1週間前の10月19日、20日には、嘉手納飛行場に飛来した米サウスカロライナ州軍基地所属のF16戦闘機計10機が、午前2時〜3時すぎに相次いで離陸し、100デシベル前後の爆音を発生させる事態が起きた。

 住民は眠りから覚まされ、「眠れない。睡眠妨害も甚だしい」「地割れがしたかと思うくらいすごい音で、胸がどきどきしている」「米軍はやりたい放題だ」「基地撤去くらいの気持ちで止めさせるべきだ」といった多くの苦情が町役場に寄せられた。

 この問題で、當山町長は10月25日、外務省沖縄事務所を訪れ、川田司沖縄担当大臣に騒音防止協定の順守を米側に徹底させるよう要請した。

「現在、日本政府に対して第三次騒音訴訟を起こしています。原告は町の人口1万3,800人のうち5,000人、有権者の半数以上です。F15ジェット戦闘機の県外移転、訓練は本土の基地で行う、航空機の事故に対する抗議などの訴えです。第一次、第二次訴訟では裁判所が認めてくれました」

 基地の町における米軍関係の事件・事故もマイナス要因となっている。基地があるがゆえに、町の産業がなかなか発展できないという環境で、人口の減少が懸念される。

「この町に住みたいという人はいるので、彼らに住んでもらう受け皿を検討しています。市街地の整備と同時に、なんとか人口減少を食い止めるため、住宅・アパートを増やせないかと頭を痛めているところです。基地が返還された場合の経済効果は、試算では、30.3倍と大幅アップになっています。明らかに、基地の存在は町にとってデメリットのほうが大きいのです」

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 ところで、普天間基地の移転先、名護市辺野古がマスコミをにぎわしているが、そもそも移転先の最初の案は嘉手納だったそうだ。それが結果的に辺野古に決まった。 2014年、辺野古容認の仲井眞弘多(なかいま・ひろかず)知事から辺野古反対の翁長雄志(おなが・たけし)知事に替わった。辺野古に基地建設を推進する日本政府と、あくまでも反対を主張する翁長知事とのせめぎ合いが泥沼化しているのは、周知の通りである。

 普天間の移転問題により、嘉手納、北谷、読谷の3町がまとまって「三連協」が結成された。
「普天間の移転先が辺野古に決まったことに無関心ではありません。この問題は、沖縄県民の意思というよりは、地元、名護市民の意思が大切です。民主主義国家である以上、地元の民意は尊重されるべきです。民意に従うことが大切でしょう」


▲大蛇(おろち)伝説が残る比謝川上流の神秘的な池「屋良漏池」(やらむるち)の観光宣伝用の大蛇

 もともと琉球の歴史の中にあって史跡が多く、豊かな自然にも恵まれた嘉手納は、「基地の町」のイメージから脱却した町おこしに力を入れている。當山町長をはじめ町をあげて観光プロモーションに取り組んでいるのだ。

 郷土の偉人としては、1605年に中国福建省から甘蔗(かんしょ)を初めて沖縄に持ち帰り、郷里の野國(のぐに)で栽培した野國總管(のぐにそうかん)が挙げられる。甘蔗はその後、薩摩、関東以南へと伝わり、特に飢饉の時などに貴重な食料品となった。野國總管の墓は嘉手納マリーナ敷地内にある。

 沖縄耶馬渓と呼ばれる沖縄八景の一つ、比謝川(ひじゃがわ)は、マングローブが生えていて、ここを中心にカヤック乗りの観光客が年間7,000人訪れる。
 「道の駅かでな」は嘉手納飛行場の横に建っている4階建てビル。特産品売場、レストラン、学習展示室、そして屋上には飛行場が見学できる展望場とスカイラウンジが設けられている。
 大蛇(おろち)の伝説が残る神秘的な池、屋良漏池(やらむるち)では、大蛇伝説を素材に作られた組踊りが有名。

「うれしいことに、人気歌手の郷ひろみさんが嘉手納町の観光大使第一号になってくださいました。まずは、比謝川、道の駅、屋良漏池の3つを組み合わせて、町の観光促進に取り組んで行きたい」と、當山町長は意欲のほどを示す。


▲嘉手納町の観光スポットのひとつ「道の駅かでな」の建物


▲「道の駅かでな」屋上の展望場から眺める嘉手納飛行場

▲展望場の見学者  ▲ジェット戦闘機の離陸を撮影しようと待ち構える写真家たち


 インタビューを終えた後、町役場から飛行場のフェンス沿いに東へ2〜3キロ離れた「道の駅」を訪れた。屋上の展望場からは、嘉手納飛行場が一望のもとに見渡せる。ここには年間50万人が訪れ、米軍のジェット戦闘機などの離着陸の様子を見学しているとのこと。

 広大な飛行場には、格納庫、プロペラ軍用機、ジェット戦闘機などが姿を見せている。一般の見物客のほかに中学や高校の生徒の一団が教師に引率されて上がってきた。彼らにとって生きた社会科の勉強になるにちがいない。

▲エンジン音を響かせ・・・ ▲滑走路へと進む



▲耳をつんざくような爆音をとどろかせ離陸

 しばらく待っていると、ジェット戦闘機の離陸が始まった。4機、また4機、次々と大空に向かって発進して行く。「キーン」「キーン」──ものすごい爆音だ。遠くの距離なのに、すぐ目の前で聞こえるような金属音。トロントで毎年9月初めに開催される国際航空ショーで、思わず両手で耳をふさいだ、あのジェット戦闘機と同じようなすさまじい音だ。  町の住民は、昼間でさえこれほどひどい騒音なのに、ましてや、睡眠中の真夜中に聞かされては、とても耐えられないだろうと同情の念にかられた。

 町民の大部分が基地のない時代が来ることを待ち望んでいる。しかし、現実は厳しい。不確実性が充満する世界情勢の中にあって、日本の防衛の最先端に立つ沖縄が置かれた立場。それをぐっと耐え忍んでいる嘉手納の町民。當山町長が話してくれた言葉のひとつひとつをかみしめながら嘉手納町をあとにした。

(2016年11月24日号)



 
 


 
 
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